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研究者向けの技術研修資料を公開します
はじめに
こんにちは、AI Labの岩崎です。普段はResearch Engineerとして他チームの実験サポートや研究成果の社会実装などをしています。タイトルの通り、CyberAgentにあるAI Labという研究機関で技術研修を行った話をします。
AI Labは現在インターンを含めて100名近いメンバーが在籍しており、これはメガベンチャーである弊社の中でも大規模な組織です。このように規模が拡大する中で、他社での経験があるメンバーはもちろんのこと、先月まで大学で研究を行っていたメンバーであっても、入社後すぐに共著や社会実装を通じてプロダクトと連携できる程度の技術力が求められます。 小規模な組織であれば技術力の高いメンバーが他のメンバーをフォローすることも可能でしたが、現在の組織規模ではチームや個人間で研究開発力に差が生じつつあります。そうした背景があるAI Labではオンボーディングは用意されているものの、新卒向けのような基礎的な技術研修は行っていませんでした。そこで研究開発力の底上げやナレッジのオープン化・スケール化を目指し、研究者向けのスキルアップ研修を開催しました。

図1. AI Labには新卒と違い技術研修がない
どんな研修を行ったか
研修運営としての所感は後述するとして、まずは各資料を表にまとめたのでご活用ください。弊AI Labの技術スタックに寄せているため新卒研修ほど一般化できていませんが、コードレビューからライセンス・わかりやすい図の作り方など、研究で必要とされる技術テーマを網羅しました。技術のキャッチアップや研究室の新入生・新入社員へのオンボーディングなどの参考にして頂けるとうれしいです。
資料 | 講師 | タグ | 概要 |
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Python Coding Best Practice | Tomoya Akiyama | #Development, #Beginner | 研究者のためのPythonコーディングのテクニックを網羅的に紹介 |
IDEで効率的な研究開発 | Yuantian Huang | #Development, #Beginner | VSCodeの初期設定からオススメプラグイン・インスタンス連携によるリモート開発を紹介 |
Google Cloud – IAM & Admin | Akira Kasuga | #Development, #Beginner | Google Cloudにおける正しい権限管理、認証・認可について |
Container for Research | Yuki Iwazaki | #Development, #Beginner | Dockerコンテナ技術を使った実験環境の作成・共有・デバッグ方法のハンズオン |
モデルコードの高速化・最適化 概要・構成検討 | Katsuya Hyodo | #Development, #Beginner | 機械学習モデルを実運用するためのハードウェア・ソフトウェアを意識した高速化・最適化のハンズオン |
実験・分析コードのGitHub公開 | Kazuhiro Ota | #Development, #Beginner | 実験・分析コードのGitHubリポジトリとしての公開方法について |
OSSライセンス入門 | Yasuhiro Yoshimura | #Development, #Beginner | 研究・開発におけるOSSライセンスの適切な利用方法について |
チーム開発から学ぶコードレビューのお作法 | Yuki Iwazaki | #Development, #Beginner | コードレビューの依頼方法やレビューをする上でのポイントをGitHubのPull Requestを通じてハンズオン形式で紹介 |
ビジョン系データ品質の保ち方 | Katsuya Hyodo | #Development, #Beginner | 画像処理・推論モデルにおけるデータ品質の高め方、バリデーションの注意ポイントなど |
3次元コンピュータビジョン入門 | Takeshi Ishita | #Development , #Advanced | 基礎的なカメラモデルの解説、カメラ姿勢の表現方法、実際の応用について |
asyncioでなんちゃってリアルタイム音声対話システム | Ryosuke Kohita | #Development , #Advanced | リアルタイム音声対話雑談システムを題材にしたasyncioベースの実践的コードで、asyncioの使い方・使い所を体験 |
研究コードのソフトウェア化と成果物の公開 | Kazuhiro Ota | #Development , #Advanced | 研究で書いた実験コードをPythonライブラリやデモサービスとして使う際のソフトウェア化・成果物の公開について |
論文の書き方 | Antonio Tejero de Pablos | #Research, #Beginner | 著名な論文の分析を通じて、英論文の書き方の基本や便利なtipsを学ぶハンズオン |
Rebuttalの書き方 | Mayu Otani, Wataru Shimoda | #Research, #Beginner | 国際会議における査読レビューについて、レビュワーがどのような見方からレビューを書いているかという点を考慮し、rebuttalを書くコツを紹介 |
デザイン入門編:4つの基本原則を知る | Daichi Haraguchi | #Research, #Beginner | 様々な資料作成に役立つグラフィックデザインの4つの基本原則を紹介 |
どうやって進めたか
ここからは初めて研修運営をした上で気をつけたことの備忘録になるので、適宜読み飛ばしてください。
研修コンテンツ作成
冒頭に述べた内容に関連して、研究者のスキルアップのために繰り返し見てもらえる研修資料を提供することが本プロジェクトの目的の1つでした。そのため、どんな研修を行ってほしいか・普段どんなことに困っているかをアンケート調査し、その意見を元に需要の高いものを研修コンテンツとしました。

図2. Google Formで事前アンケートを実施、研修に対する意見を集めた
講師の依頼
新卒研修では全社から講師を募りますが、Labメンバーの技術的なスポットライトや講師自身の成長を促すことも兼ねて研修講師もLab内で募集しました。社内複業的に準備を進めてもらうため、余裕を持ってオフライン開催2ヶ月前にはテーマの確定・依頼まで済ませるようにしました。

図3. 議事録の一部。複業かつ長丁場なプロジェクトになるので、ダレない程度に隔週で研修運営定例を実施
オフライン研修の開催
AI Labではインターンや通年採用の影響で毎月人の出入りが起こり得ますが、毎月研修を行うことは現実的ではありません。そのため元々は研修資料を展開するだけの予定でしたが、情報過多なご時世なので受動的なやり方では資料も読まれずスケールしないと考えました。これらの前提を考慮し、大きく夏・冬のインターンに資料共有を合わせられるよう6月・12月に社内のセミナールームを貸し切りオフライン研修を開催することにしました。

図4. 研修当日の様子。12月回はコンテンツが1日で収まらず、2days開催となった
やってみてどうだったか
参加者へ事後アンケートを行い、6段階のリッカートで5-6が8割以上と概ね高評価でした。

図6. 研修後アンケートの結果。この他にも運営全体に対するコメントや、研修を受けてなお新規で聞きたいテーマなどを募った
更に研修資料を社内のwikiにまとめた上で、Google Analyticsで閲覧数などをトラッキングしました。オフライン研修の参加者が50人前後なのに対し資料サイトのユニークユーザが200人以上と、AI Labの枠を超えて社内で多くの方に参照されました。

図7. 資料サイトのGoogle Analytics。オフライン開催によりViewが大きく増加した
このような良い結果の傍ら、反省点もたくさんあります。中でも参加者全員の満足度を考慮した難易度のバランスに苦労しました。AI Labは中途メインということもありスキルレベルにばらつきがあります。そこで研修の難易度をBegineerとAdvancedに分けた上でタイムテーブルを事前に共有しておき、各々必要な講義を選んで参加してもらう方針を取りました。それでも講義によってはBegineerすぎる、Advancedすぎるといった意見がありました。
他にも講師目線で、BegineerよりはAdvancedな講義を作るほうが講師自身のチャレンジングなキャッチアップに繋がるため、講義をAdvancedな内容に寄せたがるといったことがありました。そのため研修としてのとっつきやすさと講師としてのモチベーションのトレードオフを依頼前に納得できる形にしておくことが重要だと認識しました。
おわりに
立ち上げ期でこの形になるまで多くの試行錯誤がありましたが、運営委員と受講者の皆さんの協力で1年走り切ることができ、本当にありがとうございました。今年も新たなテーマを仕込んでおり、いつでも見返せる研修資料の研鑽を毎年繰り返すことで、枯れたテーマ・新しいテーマ含めその時の需要に応じて最適化されていくことでしょう。組織に足りないスキルを補い合う仕組みは弊AI Labに限らず使えるスキームとして良い文化形成になったかなと思います。4月に入って研究室や会社のチームに新メンバーが増えてくる頃だと思いますので、本公開資料が少しでも参考になればうれしいです。
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