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【採択論文紹介】小売店舗におけるロボット導入の混合研究フィールド実験(HRI2026)


AI Labの宋です。Interactive AgentグループはHuman-Agent Interaction、Human-Computer Interactionを中心に研究・開発を行っています。今回は、 Human-Robot Interaction分野の主要な国際会議であるHRI2026に採択された、小売店舗におけるロボット導入の混合研究フィールド実験についての論文について紹介します。

論文名:From Metrics to Meaning: Insights from a Mixed-Methods Field Experiment on Retail Robot Deployment

著者:Sichao Song, Yuki Okafuji, Takuya Iwamoto, Jun Baba, Hiroshi Ishiguro

 

はじめに

小売領域では、サービスロボットの導入によって「通行人の注目を集める」「立ち止まりを増やす」効果が報告されてきました。一方で現場で本当に問われるのは、その注目が意味のある顧客体験や購買につながるプロセスに転換されるかどうかです。本研究は、数値(Metrics)として観測できるファネル指標と、現場スタッフの解釈・実務上の判断(Meaning)をつなぎ、ロボット導入の効果がなぜそのように現れるのかを、混合研究(Mixed-Methods)で解き明かします。

研究背景

小売店舗でロボットが担いやすい役割は、入口での声かけや存在感によるアテンション獲得です。実際、先行研究でも、立ち止まりや滞在時間の増加は比較的一貫して示されています。しかし、立ち止まりが増えても、店員による接客、入店、試用、そして購入といった下流工程が同じように伸びるとは限りません。さらに実店舗では、ロボットと顧客の二者関係だけでなく、店員がいつ・どのように介入するかという三者協調が結果を左右します。このため、KPIを追うだけでは見落とされる「現場で何が起きていたのか」を同時に捉える必要があります。

研究目的

本研究では、次の2つの研究目的を設定しています:

  • RO1:実店舗におけるロボット導入(および入口演出としての什器の併用)が、顧客行動ファネルとサービス成果に与える影響を定量的に検証する。
  • RO2:観測された定量パターンを、店舗スタッフの解釈を通じて説明し、実務導入に向けた論点と示唆を抽出する。

研究方法

寝具専門店にて実験を実施しました。高関与・高価格帯の商品を扱うため、来店者はなんとなく見るだけでなく、試用や説明を通じた意思決定が重要になります。実験は12日間で、次の3条件を4日ずつ実施しました。
(1)通常条件:ロボットなし(通常営業)
(2)ロボットだけの条件:入口に対話ロボットを設置
(3)ロボット+什器の条件:ロボットを専用什器と組み合わせて入口演出を強化

データは2台のカメラで撮影し、通行人→立ち止まり→ロボットによる初期対応→店員への接客引き継ぎ→入店→接客→購入、というサービスファネルを動画アノテーションで定量化しました。加えて、実験直後に店舗スタッフ6名(店長1名+店員5名)への半構造化インタビューを行い、数値の背景にある判断・規範・フリクションを抽出しました。

結果

定量結果

もっとも象徴的な結果は、「入口で立ち止まる人は増えるのに、店員さんが主導するその先の流れは減ってしまう」というねじれです。店の前を通った人数は、通常条件が 20,180人、ロボットだけの条件が 21,938人、ロボット+什器の条件が 20,035人でした。通行人のうち「立ち止まった割合」は、0.73% (通常条件)→ 1.50%(ロボットだけ条件) → 2.48% (ロボット+什器条件)と段階的に増えており、条件による差は統計的にもはっきりしていました。

一方で、「立ち止まった人の中でその後どうなったか」を見ると、店員さんが関わる指標は全体として下がっています。

  • 店員さんが声をかけた割合: 19.7% (通常条件)→ 13.4%(ロボットだけ条件) → 4.8%(ロボット+什器条件)
  • 入店した割合は:32.0% (通常条件)→ 20.1% (ロボットだけ条件)→ 9.5%(ロボット+什器条件)
  • 店内で接客を受けた割合: 18.4%(通常条件) → 6.1% (ロボットだけ条件)→ 4.0%(ロボット+什器条件)
  • 立ち止まった人のうち購入した割合: 11.6% (通常条件)→ 5.5%(ロボットだけ条件) → 2.6% (ロボット+什器条件)

で、いずれも条件による差は有意でした。

なお、購入を「通行人全体あたり」に換算すると 0.08% (通常条件)→ 0.08%(ロボットだけ条件) → 0.07%(ロボット+什器条件) で、有意な差はありませんでした。つまり、入口で注目を集めても、それがそのまま売上の量(買う人の増加)につながるとは限らないことが示されました。

定性結果

インタビュー分析は、上記のねじれを説明する複数のメカニズムを提示します。

第一に、入口のロボットは強い視覚的アンカーとなり、特に子どもを中心に注意を引きました。その結果、家族連れが立ち止まる割合が増えますが、寝具の購入意思決定者である大人の購買意図と必ずしも一致しません。「子どもが会話して満足し、そのまま去る」という入口でニーズが閉じるパターンが報告されています。

第二に、店員側の「非侵入」規範が介入を遅らせます。ロボットが話している最中に割り込むことを避け、適切な間(会話の切れ目)を探す必要がある一方、応答生成の待ち時間や聞き返しなどの間が曖昧で、店員がタイミングを掴みにくいという指摘がありました。

第三に、什器は視認性を高め、試用(サンプルに触るなど)を促す一方で、入口に「小さなブース=マイクロスペース」を形成し、そこで会話や試用が完結しやすくなる可能性があります。入口演出の強化は引き留める力を上げるが、店内へ誘導する力を同時に弱めることがあり得る、という含意です。

考察

本研究は、店にロボットを入れたときの効果を、ひとつの数字だけで見るのではなく、「流れ」として見ていく考え方を示しています。入口で人の目を引いて立ち止まってもらうだけでは足りません。ロボットが話しかけたあと、店員さんが評価や提案に引き継ぐ(Handoff)がうまく起きてはじめて、入店・接客・購入といった店内の行動が動き出します。

今回の運用では、店員さんの判断ややり方を尊重するために、「こういう手順で引き継ぐ」といった決まった型(台本)をあえて作りませんでした。現場の自然さは保てる一方で、引き継ぎの合図がはっきりしなくなり、店員さんが入るタイミングが遅れる → その先の行動が弱くなる、という可能性が考えられます。

本論文では、現場で導入していく上でのポイントを次のように整理しています。

(1)役割と入るきっかけをはっきりさせる

ロボットは入口での案内・呼び込み、店員さんは評価・提案・最後の後押し、という役割分担を言葉で明確にします。そのうえで、どんなときに引き継ぐか(会話が途切れたとき、サンプルに触れている時間が一定を超えたとき、など)を、重くならない範囲で決めておきます。

(2)引き継ぎを見て分かる形にする

ロボットのひと言(例:「スタッフがご案内します」)や、ライト・画面表示など、強すぎない合図で店員さんが入りやすくします。あわせて、店員さんが状況をつかみやすい配置(視線が届く、会話が聞こえる距離)も大事です。

(3)入口の見せ方は「見つけやすさ」と「店内への進みやすさ」を両立する

什器で目立つほど、入口の周りだけで完結してしまうリスクもあります。サンプルを少し店内側に置く、境目を作りすぎない、見通しを確保する、といった工夫で、「自然に中へ進める流れ」を設計します。

(4)見るべき指標を広げる

立ち止まりだけでなく、引き継ぎがうまく起きた割合(店員さんの介入が発生した割合)や、店内で評価・提案が始まった割合など、流れの途中の指標も、KPIとして持つことが重要です。

おわりに

実フィールドでの対話型のロボットの設計に課題を感じていたり、実証実験や導入を検討しているような企業・研究者の皆さまは、ぜひ現地で議論の機会をいただければ幸いです。

また、我々のチームでは一緒に Human-Robot Interaction / Human-Computer Interaction の研究・開発を行っていただける研究者・エンジニア・博士インターン生を募集しています。本ブログを見てご興味を持っていただけた方はぜひ一度カジュアルにお話させてください。よろしくお願いします。