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Agile2019 参加レポート – Day4 & 5, 総括
こんにちは。
アドテクスタジオ、LODEOというプロダクトでエンジニアをやっている陶山です。
すこし時間が空いてしまいましたが、
Washington D.C. で開催された Agile 2019, 最終日の様子と総括をお送りしたいと思います!
前回までの記事はこちら:
Day4
この日はちょうど朝食の会場で Woody Zuill 氏とお会いできたので、一緒に朝御飯を食べて、そのまま彼のセッションへ。
朝食の間、「日本では人気だけど、実際のところUSでのモブプロはどう?」と聞いてみました。
曰く、「広まってきてはいるけど、まだまだやるべきことはある」と。
特に、
「特別なやり方としてモブプロをやっているチームはUSでも多くある。でもモブプロを “仕事のやり方” としてやらないのは、週に一,二回しか練習しないオーケストラみたいなものだよ」
とおっしゃっていて、なるほどさすが達人のメタファは納得感があるなと感じました。
How to facilitate a Mob Programming session as a coach? by Woody Zuill
「Coaching Technical Skills For Less Technical Coaches」
技術的なところが弱いコーチが、技術的なスキルをコーチングする、というカテゴリでのセッションでした。
Workshopのカテゴリでしたが、残念ながらモブプロの概念紹介のトーク+質疑応答という感じでした。
最初に会場の参加者全員から期待することを集めていましたので、そのレベル感もあったのかな、と思います。
AgileJapan 2018 での彼の公演 ‘Power of Flow’ と、Agile2014 の論文 ‘Mob Programming – A Whole Team Approach’ の内容とかぶることころが多く、僕にとっては新しいインプットは多くなかったのですが、それでも自分にとっては満足度の高いセッションとなりました。
モブプロの説明の中で印象的なのは、Driver/NavigatorパターンでのDriverの役割について。
Driverはただ言われたことを入力する人ではないし、モブプロは一人がコードを書いてそれを周りが見ている、というものではありません。
それを端的に表している言葉が、「Smart Input Operator」です。
以前は 「Smart Input Device」 だったけど、「人間を Device 扱いするのが嫌だった」とのことでOperatorに変えた、ということをおっしゃっていました。
そして Power Of Flow、フローの力について。
彼の言うフローには2種類あります。
心理的なフロー(’ゾーンに入る’というやつ)、
そしてLeanのフローです。
モブプロでは、これが掛け合わされることで最大限のパワー、効果を発揮します。
「チームのフロー」状態は、これまでモブプロを続けてきた経験の中でもとても納得感のある表現です。
モブプロをしてチームの練度が上がってくると、チームの意思が一体となって進んでいる感覚を得られることがあります。
自分たちのやっていることを再認識するという意味でも、参加してよかったと思えるセッションでした。
Mapping the Agile Journey by Stephan Denning
「Age of Agile」の著者 Stephan Denning 氏のセッションです。
これはかなり刺激的なセッションでした。
前半は Microsoft, Amazon といった巨大企業がいかに Agile Transformation をすすめてきたか、という Journey の紹介でした。
後半はAgileが浸透すると同時に増加している、 “Fake Agile” について。
(もちろん参加者の多くがAgile Coachというロールなのですが)Agile Coachへの警鐘のように受け止めました。
彼の言う ‘Fake Agile’ とは、
たとえば、プロセスとして’儀式’化してしまった Agile。
たとえば、「安い・早い・うまい」みたいなラベル化してしまった Agile。
そして、Mindset のない Agile。
では Agile とは何か。
もちろん、 Agile は Mindset だよ、と。
そして彼の言う Agile Mindset とは、以下の3つの要素から成ります。
顧客の法則。
ドラッカーを引用して、顧客を取り込む企業から、顧客を作る顧客中心の企業へのコペルニクス的転換を説いています。
小さなチームの法則。
ベソスの「2枚のピザで足りるチーム」は有名ですね。
アジャイルチームにおけるマネジャーへの言及もありました。
そして、ネットワークの法則。
部隊単位の目標から、組織単位の目標にフォーカスして動く部隊へ。
US軍隊の ‘Gardener’ リーダーシップ についても言及がありました。
「USは日本よりAgileが進んでいる」という荒い認識から一歩進んで、USでのソフトウェア開発シーンの一端を見れたように感じました。
Day5
最終日は午前中までで、最後にキーノートがあります。
Agile Pictionary by Ellen Grove
今年は最後のセッションはグラフィックレコーディングに関するセッションに参加してみました。
今回のカンファレンスでも多くのすばらしいグラレコに出会いました!
Its not perfect, but it’s good enough. Stop striving for perfection… Live #sketchnote of @lynnecazaly keynote at #Agile2019 @AgileAlliance pic.twitter.com/hWBzsJkNoS
— SketchingScrumMaster (@sketchingsm) August 7, 2019
My visual notes from @portiatung closing keynote on Playful Leadership at #Agile2019 @tsoplay pic.twitter.com/NaarPmkyaq
— Lynne Cazaly (@lynnecazaly) August 9, 2019
まずは同席した人たちと、交換しながら相手の似顔絵を書くワーク。
これはかなり盛り上がりました!
Awesome handwriting lol,,#Agile2019 #AgilePictionaly pic.twitter.com/zJNN6Xa2cx
— Ikuo Suyama (@martin_lover_se) August 9, 2019
簡単な図形を組み合わせて、さまざまなイラストを作れます。
影をつけるといい感じ。
大切なのは細部に拘って完璧を目指すことではなく、会話を通じて共通理解を得るための補助になること!
Ish(※Day2&3のキーノートを参照)じゃん!と同席した人たちと盛り上がりました。
KeyNote: Playful Leadership – How to Enable Transformational Change and Have Fun Doing It by Portia Tung
最後のキーノートは、「遊び」「遊び心」の大切さと、それをどう変革に活かすか、ということについて。
「仕事に遊びなんて…」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
なぜ遊びが必要なのか?
「遊び」は根源的に、人と人との関係を作るものであったり、クリエイティビティや喜びの源であったりするんですね。
遊びの反対は仕事じゃないよ!むしろ仕事とは関連がある。
反対は’落ち込むこと(depression)’だよ、と。
では遊びをどう活かすのか。
Agile Conference ですから、Agile Transformation に苦労している人たちがたくさんあつまっています。
彼女はこれを、 ‘Agile Zombieizm’ と表現していました。
変わりたくない、変わるのは自分じゃない…
アジャイルに限らず、何か新しいアイデアを組織に持ち込みたいとき、よくある反応ではないでしょうか。
これを、 ‘Play’ でどのように変えていくことができるでしょうか?
氷山は意識(Consciousness)と無意識(Unconsciousness)のメタファでよく使われますね。
顕在する問題というのは、思考 – 感情 – と潜っていって、結局 ‘信条’からくるもの。
信頼関係を確立し、‘rapport’ 調和の取れた状態、’仲間’になる。
そして自分の ‘信条’ に対する認知を向上させることで、初めて認知を変えることができるよ、と。
彼女はこれを、Model L/ L for Life, Love と呼んでいました。
最後に、 Playful な状態をつくるリーダーとしての心得を教えてくれました。
個人的にはすごく賛同できる内容でした。僕たちのチームでは、ふりかえりを始める前にアナログゲームをみんなで遊んでいて、それがすごくチーミングに役立っていると感じています。
チームの関係が良くなってから、新しいアイディアをチームにもたらすハードルがすごくさがったように思います。
まとめ
今年も最先端の事例に触れられたと感じるのですが、さて Agile はどこに向かおうとしているのでしょうか。
昨年は(賛否あるにせよ)「Business Agility」という強力なキーワードがあったのですが、今年は残念ながらそれに準ずる強力なテーマは見つけられませんでした。
日本との違いも含めて、気になった点を幾つか紹介したいと思います。
これらは日本とUSどちらがいい/優れている、という話がしたいわけではなく、純粋にUSのカンファレンスに参加して感じた差、ということでご理解いただければと思います。
また、私個人が参加したセッションや話した人の影響を強く受けていますので、USのシーン全体を語るものではないことをご了承ください。
Less Tech Person & They write code
昨年はなかったのですが、新設で
「Coaching Technical Skills For Less Technical Coaches」
というトラックがありました。
日本ではコードを書いていたエンジニアがアジャイルコーチになるケースが多いように感じていたのですが、
USではいきなりコンサル&アジャイルコーチになるキャリアパスを歩む方も相当数いらっしゃるとのことで、
このトラックはそういう背景で需要があるようです。
一方で、Dev/Tech系のセッションを聞いたり、スピーカーの方々と話していて強く感じたのが「They write code」です。
今の時代にソフトウェアをつくるということがどういうことなのか?を現場レベルの高解像度で理解していて、
かつ経営に携わっている人も少なからずいて、コントラストが強いなと感じました。
Effectiveness over Efficiency
それから、Efficiency(効率) から Effectiveness(効果) への本格的な転換が感じられました。
もちろんこれは今年に始まった話ではないのですが、今年は Mob Programming の台頭により、顕著になっていると感じています。
Mob Programming は今年はタイトルに含まれてメイントピックとして扱われるセッションが3つありましたし、Johanna Rothman 氏のセッションなどでも言及されていました。
また、私は今回 Mob Programming のトピックでLTを行ったのですが、発表中に「モブプロ知っている人?」と聞いたら会場内で半分以上手が上がり、普及率の高さが伺えました。
Woody Zuill も彼のワークショップセッションの中で、モブプロに対してよくある疑問
「5人が同じPCに向かってどうやって効率的に働くのか?」
という問いに対して、
大切なのは ‘効果的に’ 働くことで、
「一緒に働くべき5人が別々に働いていたら、どうやって’効果的に’働けるのか?」
を考えよう、と説いていました。これは私にとって非常に納得感のある問いですし、他にも多くのセッションで Efficiency と Effectiveness に関する言及がありました。
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社内でフィードバック会を行い、いくつかのセッションを紹介したので、資料を公開しておきます。
今年も多くの出会いと学びがあった、最高のカンファレンスでした!
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