Interview

ロボットが自立的に動いている世界を目指して、人の行動を理解する

岡藤 勇希 / 英国Leeds大学

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Interviewee

岡藤 勇希

英国Leeds大学

2018年に神戸大学工学研究科修了.博士(工学).修了後,サイバーエージェント Research Scientist,学術振興会 特別研究員(PD),大阪大学 招へい研究員を兼任.2017年に英国Leeds大学 客員研究員,2018年にサイバーエージェント 研究インターン.現在は,ロボットの動作生成,自動車の自動運転,ドライバの行動解析,に関する研究に従事.

馬場 惇

AI Lab

2014年に京都大学情報学研究科を修了後、新卒でサイバーエージェントへ入社。 アドテクスタジオ初の研究開発組織の立ち上げ後、DSP事業におけるロジック開発責任者を経て、 現在はAI Labの接客対話グループのリーダーとして石黒研究室との産学連携を担当。 大阪大学基礎工学研究科 招聘研究員。

 

前回の菊池さんのインタビューに引き続き、今回は博士課程の学生を対象としたサマーインターンシップに参加後、継続してAI Labで研究されている岡藤勇希さんにお話を聞きました。

AI Lab のサマーインターンシップとは

AI Labでは博士後期課程の学生に向けてサマーインターンシップ2018を開催しました(現在募集終了)。実際にAI Labの研究員と共に、AI 技術を用いて広告に関わる技術課題の解決に挑戦し、インターンシップのゴールとして、各学術分野の国際トップカンファレンスへの論文寄稿・採択を目指すことも可能です。採択された場合、渡航費などカンファレンス参加に関する費用は当社が全額負担いたします。AI Labでは、優秀な若手研究者が限られた期間において実務経験価値を向上させることができる機会を提供し、研究者育成に貢献したいと考えております。

博士サマーインターンシップお疲れ様でした!これまでの経歴や研究内容について教えてください。

2018年9月に、神戸大学工学研究科博士課程を修了しました、岡藤勇希です。修士課程では、自動車の自動運転に関する研究を行なっていました。人間と同じような運転をするシステムの提案、ということに着目して研究を行なっていたため、博士課程では上記に加えて人間の運転特性の検証する心理学も含めた、学際的な研究を行なっていました。

博士サマーインターンに参加したきっかけや決め手を教えてください!

今回の博士インターンに参加しようと思ったきっかけ自体は、博士課程の修了が見えていたので、大学に残るか民間企業に行くか悩んでいたためです。民間企業の雰囲気が分からなかったこともあり、修了間際の時間を活用して進路選択のためにインターンに参加することにしました。サイバーエージェントのサマーインターン自体は、AI Labのクリエイティブリサーチのチームで博士インターンをしていた菊池君と同じく、Twitterでバズっていたのがきっかけで知りました。インターン選考過程で研究テーマを自分で考えて提出する必要があったため、インターンとはいえ裁量権を持って研究が出来そうなところに魅力を感じて応募しました。

博士インターンに参加する前に抱いていた「企業研究所」のイメージと、実際に企業の研究所でインターンしてみて、変化したイメージはありましたか?

僕は少し特殊なパターンで、サイバーエージェントが産学連携して共同研究講座を開いている大阪大学の石黒研究室に勤務していたのもあり、環境の面においては研究内容が違うだけで、雰囲気的にはあまり変わりませんでした。博士インターンに参加する前は、企業の研究所は研究方針がきっちり決められていてやりたい研究を自由にできないのかも、と思っていましたが、実際にインターンをはじめてみると、ある程度の研究方針の制約はあれど、研究内容等をかなり自由に決められたので、良い意味で企業研究所のイメージが変わりました。

企業研究所で働いてみて、驚いたことや気づいたことはありましたか?

AI Labで働いてみて良いと感じた点は、業務関連や情報管理などの効率が非常に良かった事と、とにかく研究のスピード感があったことです。大学においては研究の効率に関しては体制がまだまだ古い点があるのが課題で、連絡手段、スケジュール管理、会議のシステムなど、研究する以前の時間的コストを無駄に費やしてしまっているな、と感じました。

研究のスピード感に関してはとてもギャップを感じていて、大学における自分の研究がかなり基礎研究寄りだったこともあり、二ヶ月で成果を出すというのは、今までの研究スタイルとかなりの違いがありました。企業にとって社会実装重視という面は合理的ではありますが、研究としては基礎研究的なことがやりにくい面もあると思います。例えば、今回はロボットと人間のインタラクションに関する研究をおこなったのですが、想定している状況下では上手く動いても、普遍的な状況下においては上手く動くかは分かりません。本当に重要なことは、普遍的な状況でどのような知見が得られるかということだと私は思っています。しかし、普遍的な状況下での人間の特性を得て考察していくことは非常に時間がかかってしまいます。そのため、スピード感を持って研究をするということは良い面と一緒に課題も持ち合わせていると思いました。個人的には、新たな研究スタイルを体感出来たことは非常に良かったと感じています。

博士サマーインターン中は、どんなことに取り組まれていましたか?

Sota※1 というロボットを用いた、おもてなしロボットの動作生成に関する研究をしていました。
ロボットが人の目を向いて接客を行うことが目的ですが、ロボット自体の動きが遅いとリアルタイムで人に目を向けることが出来ず、接客される人にとっては非常に違和感の持つ動作(ロボットとコミュニケーションを取る上で、人がロボットに合わせる形)になってしまいます。

そこで、ロボット自身の動きが遅くとも、人の行動を予測して、人間の動きに合わせることを目指しました。例えば、1秒後の人の顔の位置が分かれば、予めそちらの方向を向いておくことで、人間にとってのロボットの遅れを軽減することができます。

画像特徴量※2 や機械学習の手法を統合して、人間の行動を予測する手法の開発、それを用いてSotaの動作生成を行なっていました。

※1 Sota:
人と関わるロボットを広く普及させることを目的に開発されたコミュニケーションロボット

※2 画像特徴量:
画像内における人の顔を検出する際は、Haar-Like特徴量というものを使用して検出します。これは、人の顔の画像の明暗差のパターンは予め決まっており、そのパターンに合っていればその領域を人の顔として識別するようになっています。このような一定のパターンを画像の特徴量と言っています。

インターンで取組んだ研究においての一番の成果はなんでしたか?

一番の目的でもあった、動いている人の位置を予測すること、ロボットの遅れを軽減させること、に関してはそれなりに上手くいきました。

以下の動画は前者についての実験の様子です。

研究を進めるにあたって、従来手法は、精度重視で計算量が多い手法を使っていたのに対し、提案手法は高速な計算手法を複数組み合わせて、精度を補完するという形にしました。

しかし、遅れ軽減などの目的以外の所が従来手法より悪くなった点もあり、今後要検討という感じです。

*赤い点が現在の顔の位置、オレンジが0.5秒後の予測位置です。

メンターの馬場さんにお聞きします。今回のインターンでの研究方針(内容)やその成果について、馬場さんが感じたことを教えてください。

最初のインターン面談の時点で、とても話しやすく理解が早いなという印象でした。それはインターンシップが始まってからも変わらず、議論を進めながら最終的な着地までしっかり持っていく力を発揮してくれたと思います。

今回の「ロボット接客のための人の行動予測」という研究テーマは、岡藤くんと相談して、彼の興味や得意領域などを加味して決めましたが、本当にざっくりとしたイメージを共有した程度でした。そこから、具体的なアルゴリズムや実験内容までしっかり落とし込んでくれて、たった2ヶ月で従来手法よりも高い精度を出す手法に仕上げてくれたので、今でも、とても驚いています。

また、今回は大阪大学との共同研究講座におけるテーマだったので、企業の研究といいつつ、大阪大学内で研究してもらうという、非常に特殊な環境だったのですが、とても柔軟に対応してくれました。研究室内の別の学生の研究や実験などにも協力的で、2週間が経つ頃には非常に溶け込んでくれ、いることが当たり前の存在になっていましたね。笑

本人にとっても興味のあったHRI※3 という領域で、社会的なアウトプットを重視しながらの応用研究は良い刺激になったのではないかと思います。

※3 HRI・・・Human-Robot Interaction 人が使用するもしくは、人と共存し活動するようなロボットシステムを理解し、デザインし、評価するような研究領域。

岡藤さんがロボットに強く関心を持たれたきっかけと、ロボットの研究を通じて今後挑戦したいことを教えてください。

ロボットへ最初に興味を持ったのは、中学生の時に見た「アイ,ロボット」という映画がきっかけです。人間の世界に違和感なく溶け込むロボットを見て、そのロボットを作りたい!と強く思い、高専・大学でロボット関連を学び続けてきました。ただ、ルンバなどは自律的に動いていたり、最近は自動運転車も実験段階では公道で走っているので、見方によってはこのような世界はすでに来ていると思います。ただ個人的には、もっと様々な形のロボットが、自律的に動いている世界に変わって欲しいとは思っています。

今後の研究としては、博士インターン修了後も,大学での研究と並行してサイバーエージェントでの研究が続くので、ロボティクスの動作を含めたインタラクションの研究を進めたいです。今までは基本的にはロボットは動かない前提でしたが(Sota、peppar等)、ロボットが動き始めると、また違ったインタラクションの知見がどんどんと出てくるかと思います。

また今までの研究経験からも、現実のロボットが「アイ,ロボット」の世界には到達出来ない根本の理由は、人間自身のことを分かっていないためだと思っています。そのため、「人間の行動を理解する」というリサーチクエスチョンを持って、様々な分野に応用していく予定です。

最終的には、ロボットが実世界に溶け込んでいるような、「アイ,ロボット」の世界が実現できればと思いを馳せています。

岡藤さん、馬場さん、ありがとうございました。

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