Interview

技術とビジネス、両方の観点で常に研究を考えることが面白い 研究者主導で産学連携を進めるAI Labの文化

馬場 惇 / AI Lab

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Interviewee

馬場 惇

AI Lab

2014年に京都大学情報学研究科を修了後、新卒でサイバーエージェントへ入社。 アドテクスタジオ初の研究開発組織の立ち上げ後、DSP事業におけるロジック開発責任者を経て、 現在はAI Labの接客対話グループのリーダーとして石黒研究室との産学連携を担当。 大阪大学基礎工学研究科 招聘研究員。

今回はAI Lab(エーアイ・ラボ)に所属する馬場さんへのインタビューです。2017年3月にサイバーエージェントは産学連携として大阪大学 石黒研究室との先端知能システム共同研究講座を設立し、馬場さんは大阪大学に常駐をしています。
まず、馬場さんの経歴を教えてください。

2014年にサイバーエージェントに新卒入社しました。広告事業部門に位置するテクノロジー研究開発組織「アドテクスタジオ」に配属され、DSP事業などでのロジック開発などに従事した後、研究開発の横断組織「AI Lab」の立ち上げに携わりました。

今は産学連携先の大阪大学に常駐し、チャットボットやロボットによる接客の自動化の研究を進めています。

ありがとうございます。AI Labは2018年3月に理研との共同研究の開始が発表されたものも含めると、大学・研究組織との産学連携した件数は10件弱にも上ります。
インターネット企業では件数が多い部類に当たると思われますが、馬場さんが常駐されている阪大との共同講座も含め、なぜ AI Lab では多くの研究組織と産学連携ができているのでしょうか。


AI Lab で取り組んでいる研究領域は多岐にわたり、機械学習や画像処理、言語処理やHCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)、因果推論や計量経済学など、幅広い領域の研究をしています。既存の民間の研究所からすると立ち上げたばかりの研究所で、 AI Lab では各領域のアカデミアの専門家たちと協力して技術開発を行うことでスピード感を持ってアウトプットを成功させるために積極的な投資をしています。各研究員が主導して連携先を見つけてきて交渉したりしてますね。特に、弊社は「データ」や「クライアント」を数多く持っていますので、そういった面で良い協力関係が築けていることも産学連携を増やせている理由の一つではありますね。

では現在大阪大学で実施されている研究の経緯や概要を教えてください。

これまでの広告事業は、ユーザに広告をクリックしてもらい、それが購入にどれだけ結びついたかを計測していましたが、クリックから購入してもらうまでの間では特に何も介入していませんでした。しかし、クリックから購入までの間で接客することができれば、広告効果も高められるし、何よりクライアントのマーケティング全体を支援できます。そういった観点で、接客を自動化するためにチャットボットやロボットの研究を始めました。

その頃にちょうど石黒研究室へのつてができたので、石黒先生に相談させていただいて産学連携するに至りました。石黒研では日常活動型の人型ロボットの研究に取り組んでおり、ロボットの研究をすることで「人間とは何か」という基本問題に向き合っています。こちらの共同研究講座ではロボット工学から人工知能技術、認知科学まで幅広い基礎技術を組み合わせ、ロボットやチャットボットなどの対話エージェントによる接客・説得技術を日々研究しています。

直近でいうと、東急不動産様との3社共同プロジェクトとして、ホテルにおける「おもてなしロボット」の実証実験を行い、結果と展望を発表しています

AI Labとしてはこれまでも研究として論文等を学会に発表する活動が行なっていましたが、大学の研究室へ常駐して研究することはあまりなかったのではないでしょうか。大学研究室で研究をすることで環境面で何か感じたことはありますか?

大学に研究員が常駐する、というのはおそらくサイバーエージェントが設立されてから初だと思いますし、特殊なケースだと思います。

この環境で個人的に面白いと感じているのは、二つの側面から研究を議論できるという点です。学内で先生方と議論している時は「その体験がいかに心地よくユーザにとって有益であるか」に終始した形になります。そこに事業的な目標や制約などの要素はほとんど入りません。しかし、社内メンバーと議論する際には「その技術がいかに事業を加速させるか」の観点が大きくなり、時にはユーザ体験との天秤にかけることもあります。僕は両方の立場に立つポジションにいるので、両方の観点で常に研究を考える必要があり、それが個人的な成長に良い刺激になっていると感じます。

最後に、今後取り組んでいきたいことについて教えて下さい。

これまでいくつかの実験を経て、対話エージェントが接客する上で重要なのは「ユーザーの状態を推し量る」技術だと感じています。例えば、Web上でのユーザーの行動をもとにチャットボットが話す内容を変えると、ユーザーは「自分のために話してくれている」と感じる度合いが強くなります。また、ユーザーがある距離に近づいてきてからロボットが目線を向けて話しかけると、「自分に話しかけてくれてるのかな」と気づいてもらえ、関係構築の第一歩が実現できます。このように、対話エージェントの提案を受け入れてもらうためには、ユーザーの心を開く特別感を高めることが重要です。

今後はこの部分を強化していきたいと考えていて、この「ユーザーの状態を推し量る」技術を、体験面からも事業面からも深く掘り下げていきたいと思っています。

馬場さん、ありがとうございました。

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