Interview

目指すはデザイン領域とコンピュータビジョンの融合

加藤 奈津実 / 筑波大学

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Interviewee

加藤 奈津実

筑波大学

学部時代はデジタルアートやファッションの作品を制作に尽力。学部卒業後、博士前期課程から筑波大学で理系の研究を開始。現在、筑波大学図書館情報メディア研究科博士後期課程1年で、AIとファッションの研究に従事。

大谷 まゆ

AI Lab

2018年に奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了後、サイバーエージェント入社。コンピュータビジョン、機械学習に関する研究に従事。

博士課程の学生を対象としたリサーチインターンシップに参加し、AI LabのCreativeResearchチームにて研究を行なっていた加藤さんにお話を聞きました。

AI Lab のリサーチインターンシップとは

AI Labでは、若手研究者の実務経験価値が向上する機会を提供し、研究者育成に貢献したいと考えており、2018年度から博士後期課程の学生に向けてリサーチインターンシップを行なっています。リサーチインターンシップ中は、実際にAI Labの研究員と共にAI技術を用いた実践的かつより高度な研究テーマの課題解決に取り組み、ゴールのひとつとして各学術分野の国際カンファレンスへの論文寄稿・採択も目指しています。多くの優秀な若手研究者が、企業が保有する実データを用いた研究や社会実装を経験することは、研究者としてのキャリアの可能性を広げるきっかけになると期待しており、AILabでは今年も多くの博士学生の皆さんと研究に取り組んでいます。

これまでの経歴や研究内容について教えてください。

学部時代はグラフィックデザインや映像・Webを中心にしたデジタルアートを専攻しており、マーケティングゼミに所属していました。学部に在籍中、パリコレクションやミラノコレクションなどのコレクション業務に携わる機会を頂いて、2年ほど日本とヨーロッパを行き来する生活をしていました。

 

学部の経験を経て、これからデザインの分野だけでキャリアを築いていくのではなく、もう一つの異なる分野を学び、それら両分野に精通しているニッチな人材になることが重要だと考えました。そこで、デザイン分野だけではなく、情報系の研究も取り入れて、自分が好きなファッションの追求をしてみたいと思い、筑波大学の博士前期課程に進学し、落合陽一研究室に所属してHCI分野の研究を始めました。

グラフィックデザインやデジタルアートからHCIの分野へチャレンジされたんですね。このリサーチインターンではCV領域での研究テーマで参加となりましたが何が決め手になったのでしょうか?

AI Labのリサーチインターン自体は、私が所属しているラボのポスドクの方の紹介で知ったのですが、はじめは情報系に触れた期間も短かったので参加を躊躇していました。ただ、博士後期課程の1年目に実践的に研究に特化したインターンができる環境で、集中的に実装力や研究遂行能力を磨くことが必要だと感じ、今回思い切って応募しました。実際にAI Labの研究員の方とお話ししてみると、改めて今回のインターンで、自分のクリエイターとしてのバッググラウンドを活かしながら研究者としてのスキルを上げる事ができそうと感じ、本当にワクワクしました。

特に山口さん大谷さんのようなコンピュータビジョン領域でプロフェッショナルとして活動しているリサーチャーの方々の指導の下、研究ができることは何よりもありがたいことだったので、本当に嬉しく、勇気を出して応募をしてみて良かったなと思いました。

 

メンターの大谷さんにお聞きします。デザインの領域で活躍してきた加藤さんの経歴を活かす為にどのようにテーマ設計をしたのでしょうか?

 

(大谷)リサーチインターンでは、サイバーエージェントで取組んでいる研究と参加者の強みや大学で取り組んでいることを活かせるような研究テーマを設定するようにしています。なので今回は、加藤さんが今後自身の博士課程の研究を深めていくための武器になるような技術を持ち帰ってほしいと思い、GANによる画像編集手法を使った課題に取り組むことにしました。2ヶ月のテーマとしては挑戦的であったと思いますが進捗に合わせて都度、方向性と目標を相談しつつ修正して行きました。

 

研究で活きた、デザイナーというバックグラウンド

 

リサーチインターン中に取り組んでいた研究について教えて下さい。

SNSなどでいいね数が高く、魅力的に感じられる画像補正が可能なモデル構築とその分析を行いました。

広告のバナーなどに用いられる画像は、人に与える印象が重要になるため、印象に残る画像補正の学習パラメータの推定可能なモデル構築を行いました。そして、そのモデルの出力結果の分析についてはプロのデザイナーやカメラマンの方々にヒアリング調査を行い、定性評価を行いました。

 

実際にヒアリング調査を行なったのですね!これまでの経験や人脈も多く活かされたと聞きました。

学部時代のインターンではバナー制作などの経験もあり、実際に画像補正などたくさんやってきたので、制作側の視点を活かしながら学習モデルの出力をみて試行錯誤ができました。また、カメラマンやデザイナーなどプロのアーティストとして活躍している友人が数多くいるため、そういった方々の意見を取り入れて分析ができました。情報系だけの研究をしているだけではなかなかない視点や人脈があるので、少し違った角度からでアイデアを取り入れることができたのではないかと思います。

 

素早く的確な問題解決がスピード感のある研究と結果を生む

 

実際に企業の研究所で研究活動をしてみてどうでしたか?

インターンに来る前に、先輩から企業研究所のリサーチサイエンティストやエンジニアの方々と接することは、大学の研究所だけしか知らないよりも視野を広げる意味で重要であるということを聞いていました。実際に、このインターンで専門性の高い方々のもとで研究ができたことは、私にとって非常に良い経験になりました。技術力を身に着けることで、自分のバックグラウンドを活かしながら新しい価値を生み出せる分野の幅が広がったと思います。

特に今回、AI Labのリサーチサイエンティストやリサーチエンジニアの方々と一緒に仕事をしていて一番感じたことは、スピード感がとても速いということです。明確なビジョンと最善の方法を素早く的確に示してくださいました。例えば、自分が構築したモデルの出力結果があまり良くないときは、実際にコードを一行一行確認して結果の原因を素早く見つけ出しアドバイスを下さるなど、つまづいたときにたくさんのサポートをして頂きました。

そういった素早く的確な問題解決力がスピード感のある研究と結果を生むのだと思い、そしてこの積み重ねこそが全体のモチベーション向上にもつながり、結果を出し続けることのできるチームになっている理由の一つでもあるのだなと感じました。

私の所属している研究室では、HCIの研究で光学やファブリケーション、深層学習のような多様性に富んだメンバーと幅広い研究をしています。今まで私は1つの分野に特化した研究チームに所属して研究を行う経験がなかったので、今回学んだ専門性の高い技術力に加え、問題解決力とスピード感に対する意識を今後の研究にも活かしていきたいと改めて感じました。

 

両分野の研究を経験した自分だから出来る、社会への貢献を

 

大谷さんにお聞きします。加藤さんの研究への姿勢やその成果について、大谷さんが感じたことを教えてください。

(大谷)加藤さんは写真や映像、ファッションなど幅広い分野で実際の制作現場に携わってきた経験をお持ちでした。そのバックグラウンドを活かして、一般的なコンピュータビジョンの方法論とは違ったアプローチを取れるところが加藤さんの強みだと思います。

今回は写真家やデザイナーへのアンケート調査などを実施し、制作者の視点から現在の画像編集手法に対する興味深い分析結果を得ることができました。多くのコンピュータビジョンの研究ではクリエイティブな領域の問題であっても、計測しやすい指標を用いた定量的な評価を重視する傾向があります。しかしそのような方法論だけでは限られた側面しか扱うことができず、現実の課題と乖離してしまうということを再確認でき、私にとっても新鮮なプロジェクトでした。

 

今後加藤さんが挑戦したい事をおしえてください。

学部時代に制作現場で培ったデザイナーとしての視点で課題を捉え、博士課程やAI Labでのインターンシップで学んだ技術を使って課題解決をしていくという一連の流れを経験できたことが大きな学びでした。研究領域で身につけた技術をどう現場で活かしていくかのイメージが湧き、制作現場と研究チーム、両方の経験があるからこそ提供できる自分の価値を改めて見出せたと思っています。

特に今回のインターンシップでは「印象に残る画像補正」という研究テーマに取り組み、AI Labがクリエイティブ領域で成し遂げるために必要な技術と、私が元々取り組んでいたファッション領域に必要な技術には近いものがあると感じました。
だからこそ、私自身がコンピュータサイエンスの領域で技術を身に着けていく事が、制作現場が抱えている課題を解決することにつながると思っています。

大学に戻ってからは業界の架け橋として新しい価値を生み出せる人材になれるよう頑張っていきたいです!

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