Interview

驚きを与える広告をハードから実現

城 啓介 / 東京大学

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Interviewee

城 啓介

東京大学

東京大学大学院 博士課程2年. 大学1年時にロボコンに出場、ハードウェアの制作・制御に関する知識を習得。クリエイター向けカスタムキーボードTrickey,スマホ再生プロジェクトphonvert,ジャンプ力拡張ローターLunavityの3プロジェクトをSXSW(※1)に出展。修士課程では、遠隔コミュニケーションに関する研究に従事。

岩本 拓也

AI Lab

大学院進学時から現在も続けている”HCI領域における対面コミュニケーション拡張”をテーマに複数の研究を行っている。卒業後も民間企業の研究所に所属しながらHCI領域の研究を続け、論文を執筆。より大きな実験を行い社会的インパクトが強いプロジェクトを進めたくなりサイバーエージェントに転職

博士後期課程の学生を対象としたサマーインターンシップに参加後、継続して2019年3月までAI Labで研究を継続した城啓介さんにお話を聞きました。

AI Labのサマーインターンシップとは

AI Labでは博士後期課程の学生に向けてサマーインターンシップ2018を開催しました。 実際にAI Labの研究員と共に、AI 技術を用いて広告に関わる技術課題の解決に挑戦し、インターンシップのゴールとして、各学術分野の国際トップカンファレンスへの論文寄稿・採択を目指すことも可能です。 採択された場合、渡航費などカンファレンス参加に関する費用は当社が全額負担いたします。AI Labでは、優秀な若手研究者が限られた期間において実務経験価値を向上させることができる機会を提供し、研究者育成に貢献したいと考えており、今年もサマーインターンシップ2019を実施致します。

博士サマーインターンシップお疲れ様でした!これまでの経歴や研究内容について教えてください。

現在、東京大学大学院の博士課程2年の城です。大学1年の頃はロボコンに出場しハードウェアの制作・制御に関する知識を学びました。またゲーマーやクリエイター向けのカスタムキーボードTrickeyやスマホ再生プロジェクトphonvert、ジャンプ力拡張ローターLunavityの3プロジェクトをSXSW(※1)に出展した経験があります。修士課程では、遠隔コミュニケーションに関する研究を行なっていました。 具体的には、360度カメラを使ってスカイプのような遠隔通話を行う際に視線情報を通して存在感を伝える研究です。
※サウス・バイ・サウスウエスト: 毎年3月に米国テキサス州オースティンにおいて行われるテクノロジー・映画・音楽の祭典

どのような経緯で AI Lab のサマーインターンを知りましたか?また、参加したきっかけを教えてください

今回の博士インターンに参加しようと思ったきっかけ自体は、研究室の先輩に聞いたことが最初の入り口でした。他の民間企業でもアルバイトのような形でお手伝いをしたことはありましたが、インターンのような形で参加をするのは今回が初めてでした。普段の研究室で研究をするのとはまた違う知見や経験が得られるのではないかなと思い、チャレンジしてみようと思いました。

博士サマーインターン中は、どんなことに取り組まれていましたか?

前半は主に、過去の論文等を検証しながらテーマ決めからはじめました。テーマが決まった後半はひたすら検証のためのシステム実装に充てました。

具体的には、当初はスマートスピーカーをやる予定でした。 ただ研究をもっと新しい広告表現へ繋げていきたいという話が出てきて、その後研究テーマに関しての議論を重ねました。 結果としてうまく噛み合ったのが、兼ねてから注目していたローリングシャッター現象(※2)を活用したテーマです。 今回私が取り組んだのはローリングシャッター現象を活用したカメラにしか撮影できないディスプレイです。発光パターンを高速に制御することで人間の目には均一に発光しているように見えるのですが、ローリングシャッター方式で撮像するカメラには特定の画像が浮かびあがります。これによって例えばカメラにしか撮影できないQRコードを設置することなどができます。

研究室だと物事の解決方法に視点が置かれがちですが、実際に民間企業に入って感じたのは研究による実績やその結果がどうビジネスに活かせるかに視点を置く部分が多いことを感じました。 ローリングシャッター現象を用いてどんなことができるのか、可能性を議論したり実際に形にしていったりする過程が面白かったです。 またサイバーエージェントで研究をやることで、「広告」という観点で研究を見ることが出来たもの新たな発見でした。 結果としてそれが自身の博士課程の研究の視座として繋がることにもなり、テーマとして良かったなと感じています。
※2: 動画を撮影する際、カメラに映る画像をスキャンする速度よりも早い速度で被写体が動いていると発生する現象

インターンで取組んだ研究においての一番の成果はなんでしたか?


新しい情報伝達媒体,広告提示システムとなるtagscopeを開発しました。

このシステムは「Design Scramble 2018」というイベントでARと自然言語処理技術を用いた、新感覚ARコンテンツの展示『CONNECTED by AWA P[AR]TY』やサイバーエージェントの全社横断技術カンファレンス CABASECAMP でも展示されました。 また論文を執筆し現在SIGGRAPHなどの学会に投稿もしています。

また個人的には、メンター岩本さんのレビューがとてもありがたかったです。 2ヶ月の間重点的にみてくれる人がいるという安心感の元、様々な挑戦をすることができました。特にコンセプトやアイディアが出てきた際、それを実際にどう活用していくかの案を岩本さんにも協力して出してもらいながら、壁打ちできたことが、うまく形にすることができた一番の理由だと思います。岩本さんは常に技術的なシーズを思いもよらない方向に活用することを考えてらっしゃる方で、思考がシーズに寄りがちな私には刺激となりました。自分だけじゃ考えられないようなものが出来たのは、岩本さんのおかげです。

実際に色々なイベントで展示させてもらいましたが、反応もたくさんありました。 なぜサイバーエージェントでこの研究をやっているのかという反応が特に多かったです。自分としては今後サイバーエージェントがIoTの分野にビジネスの可能性を探索する場合、オンラインサービスを超えたローカルな現実環境に目を向けることが必須事項と考え今回の研究に取り組んでいました。 サイバーエージェントの目指す一歩先の未来に自分も関われたことがうれしいです。

ー博士インターンに参加する前に抱いていた「企業研究所」のイメージと、実際に企業の研究所でインターンしてみて、変化したイメージはありましたか?

企業研究を今までやったことがなかったので固定観念のようなものはなかったのですが、思っていたより裁量が大きく自分発想で自由にやらせてもらうことができました。 工作設備の都合上ハードウェアは大学で作る必要があったのですが、そのあたりの作業場所に関しても柔軟にやりやすく動くことが出来ました。正直なところハードウェアのイメージがサイバーエージェントにあまりなかったのですが、思った以上にうまくできたなという感覚です。 他にもAILabの研究員の方々と話すことで広告や他領域の話を聞くのも刺激的でした。AILabに限らずアドテクスタジオのエンジニアの方と話す機会もあり、良い意味で視野が広がりました。分野をまたがって研究の情報交換ができたのがよかったです。

企業研究所で働いてみて、驚いたことや気づいたことはありましたか?

インターンやバイトは実は7社くらい経験しているのですが全てスタートアップなどの小さな会社で、この規模の会社は初めてでした。 ただサイバーエージェントは大規模な会社でありながら、AILabは良い意味ですごく落ち着く規模感でした。AILabは周りの環境に左右されず、どっしりと構えていて良いなという雰囲気を感じました。 また特に思ったのは、論文を出すことがしっかりと会社の成果に定義付けられていることがすごく良いなと感じました。他の会社の場合なぜ論文を出す必要があるのか?という部分の説得から始まることもあるので大変ですが、サイバーエージェントは論文出版の意義を会社が理解していて、きちんとそれが成果になるというのは研究者にとって良い環境だと感じたし、入る前に感じていたCAの印象と違いました。正直なところ入る前はキラキラした人たちがいっぱいいるんじゃないかと思っていました。単純にサイバーエージェントをそこまで知らなかったからこそ、そういう印象だけが入って来やすかったです。(笑)

メンターの岩本さんにお聞きします。今回のインターンでの研究方針やその成果について、岩本さんが感じたことを教えてください。

 

全体を通して思ったのは、最初2ヶ月でアイデア出しからプロトタイプまで作れたのはさすが!の一言でした。理論上はそうだけど、本当に上手くいくかわからない中でスタートして、というところから始まりましたが、圧倒的な技術力を目の前で見させてもらったのは大きかったです。成果としてSIGGRAPHに投稿できたのもよかったと思っています。

サイバーエージェントとしてもハードウェアを一から作るインターンは挑戦的でした。そんなかで、AILabができることの最初の一歩を城さんと一緒にチャレンジすることができ、会社側としても大きな前進に繋がりました(一緒に電車で2時間かけて町工場に出向き、特殊な素材を売ってもらえるよう交渉したのもいい思い出です)。

また今回は、日本人の行動を考察し、負担が少ない導線で体験できるシステムを目指しました。例えば、今は「可愛いもの」「素敵なもの」を写真に収めるのが文化として馴染んでいます。その導線に新たなアプリを入れずに演出を追加することができればより品質の高い「情報伝達メディアになるのではないか?」と二人で仮説を立てました。このように作るだけではなく、なぜ必要なのか?など長期的なストーリを含めて考えてチャレンジできたのは、日頃から博士論文を書くことを意識している博士後期の学生のインターンならでは出来ることだと思いましたし、城さんの知見と能力の高さがあってこそでした。

城さんが今後研究を通じて挑戦したいことを教えてください

短期目標ではちゃんと博士号を取ることを頑張りたいです。実は今まで、博士号を取る意味をそこまでしっかり考えていなかったのですが、今回サイバーエージェントという普段よりも社会との距離が近い場所で研究に取り組んだことで、改めて自分がなぜ大学院で研究しているのかについて考える機会になりました。 もちろん博士課程や大学院という存在そのものを知らない人の方が世の中的に多い中、例えば博士号でこういうことやってましたというのをきちんと言うことができれば、いざ社会に出た時にそれがその時の自分の原点として生きるんだろうな、というのを身を持って感じました。 大きな社会(ローコンテクスト)と、専門性のある社会(ハイコンテクスト)があると思うのですが、自分はそのなかを行ったり来たりぐるぐるしたいタイプなんです。これからはハイコンテクストのなかでしっかりと研究をして、それがやってたことですよと言える状態になってから社会に出たいという気持ちが強くなりました。 何年かかるかわかりませんが、いずれ自分が何者なのかについて答えを出した上で、ローコンテキストとハイコンテキストの橋渡し、あるいはコミュニケーションを取りながら社会に関わっていくような存在になれたら、と思っています。

城さん、岩本さん、ありがとうございました。

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