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AI Lab の研究 skill-up ゼミ!
ゼミの紹介と論文の書き方
こんにちは!サイバーエージェント AI Lab のリサーチサイエンティスト、アントニオです。サイバーエージェントでは、ゼミ制度というものがあります。ゼミでは、社員の興味があるテーマについて勉強するために勤務時間の一部を使うことができます。幅広いテーマのゼミが開催されており、AWSやARアプリ開発などに取り組んでいます。本記事では、私が運営する研究 skill-up ゼミを紹介したいと思います。
研究 skill-up ゼミ
研究skill-upゼミは研究に関するスキルを強化してより良い研究者になることを目的としています。研究活動には、論文の調査や執筆、手法の開発と実験など、様々なタスクがあり、分野や経験に関わらず以下のような悩みは多くの研究者が共有していると思います。
- 説得力のある論文のストーリーを作るにはどうしたらいいか
- 実験結果の効果的な見せ方
- 査読の書き方
- 論文調査で得た情報の整理
研究skill-upゼミでは、メンバーが研究活動を改善していくために、今まで下記のトピックについてノウハウを調査し共有してきました。
- 論文の書き方(abstract, introduction, etc.)
- レビュー(査読)の書き方
- 研究ネタの作り方
- 論文やポスター作成のためのレイアウト/図表のデザイン
- 文献管理ツール
- 研究時間管理のノウハウ
上記のトピックについてまとめた資料は今後ブラッシュアップして公開を予定していますが、とりあえず、論文の書き方の概要を簡単に紹介したいと思います。
論文の書き方
ゼミで使っている論文ライティングについての教科書を紹介します。採用した教科書はScience Research Writing for native and non-native speakers of Englishの第2版です(図1)。この本は他の教科書と違って、論文の書き方に関する一般的なガイドラインを提供していません。この本では、読者が選んだ論文の構造を分析することで、具体的なライティングのパターンを学び自分の論文に活用できる様になることを目指します。例えば、イントロダクションを書く際に、論文の主なアイデアを強調する書き方や、結果を提案手法に関連付けて説明するパターンを具体例から学びます。
次のセクションでは、実際の論文のイントロダクションを分析した例を紹介します。具体的には、教科書で解説されている技法(提案手法の重要性を強調する表現など)が使われている箇所をチェックし、どのようにイントロダクションが構成されているかを分析します。
イントロダクションの書き方
この本ではイントロダクションでは一般的な、あるいは解りやすい問題から、論文が扱う具体的な問題まで、漏斗の様な構造があることを示しています(図2)。基本的なイントロダクションの目的は以下のようなものであると説明されています。
- 冒頭で論文のトピックを紹介する
- 関連研究を紹介し、既存研究と本研究の違いを明確にする(論文が扱う問題)
- イントロダクションで読者はモチベーションやメインアイデアを把握し、続く詳細が理解しやすくなる
今回はコンピュータビジョンの論文を使って、教科書に基づき論文の構造を下記のように分析しました。注目すべき箇所は太字で強調しました。
Siarohin et al. (2019) “Increasing image memorability with neural style transfer”. ACM Transactions on Multimedia Computing, Communications, and Applications, 15(2), 1-22.
まずは、背景情報が提供されています。研究トピックの重要性を強調する表現が使われているところがポイントです(enormous, greatly overwhelmed)。
We live in a society where everything has to be fast and in which the enormous amount of visual stimuli we receive daily has greatly overwhelmed the human capacity.
次に一般的な問題が述べられています。新しい情報が追加されるので現在形が使用されています。また、因果関係を表すのに as a consequence が使われています。
It is impossible to absorb all visual information which we are daily exposed to. As a consequence, designers are continuously struggling for capturing consumers’ visual attention.
この論文では関連研究に現在完了形を使っています。関連研究は一般知識を提供するものから本研究に近いものまで順番に紹介されます。
Previous research studies have shown that memorability is an intrinsic image property (…). Other works have demonstrated that image memorability can be measured.
次の文ではこの研究が取り組む問題とその解決方法が述べられています(while 〇〇 it would be desirable 〇〇)。
While research studies in cognitive neuroscience are used to derive general rules for reshaping visual contents, it would be desirable to reduce human intervention and devise technological solutions to automatically modify images and videos accordingly.
以下の文では提案手法の重要性が強調されています。
The specific case of memorability is interesting in practice, since it has not only a commercial impact in marketing and fashion as well as in the way visual content influences people
この文では本研究のゴールが紹介されています。現在形を使っていることに注意してください。
This work introduces an approach to automatically modify images
次の文では図を使った説明をしています。提案手法のアイデアを示す図はイントロダクションの1ページ目に配置することが効果的です。特にコンピュータビジョンの論文ではよく見る構成で、読者の注意を引く効果もあります。初めて提案手法の概要を見せる際には、入力と出力、関連研究との違いなどを明確にすることによって、論文が扱う問題とその問題の大切さが伝わりやすくなります。
The main idea behind the proposed method is illustrated in Figure 1. Given a generic image, our approach provides as output a list of suggested style images sorted by the estimated increase in memorability.
提案手法の概要の後、実験の設定が簡単に説明されています。また主な結果の説明に、この研究による成果を強調する表現が使われていることに注意してください。(”happy words” の例、effective, successful)
We evaluate the proposed approach conducting experiments on the publicly available LaMem dataset, showing that our method is effective in increasing image memorability.
イントロダクションの最後ではこの研究のコントリビューションが3つのポイントで要約されています。
To summarize, the contribution of our work is threefold:
・We introduce a novel framework to (…)
・We demonstrate the flexibility of our framework with respect to (…).
・We propose an extended version of the method (…)
最後に、重要なポイントの1つは、段落の構造、つまり paragraphing です。基本的に一つの段落では一つのアイデアを説明します。読者は最初の文章をチェックするだけで段落の内容がわかるような書き方をすべきです。イントロダクションの段落の構造は、下記の具体例の様な構造に従うことが多いと言われています。
1. We live in a society where (…)
2. In order to tackle this problem, previous works (…)
3. The main idea behind the proposed method is (…)
4. To summarize, the contributions of our work are (…)
まとめ
このブログではゼミ活動の紹介として、ゼミで勉強したイントロダクションの書き方をまとめました。教科書に沿って、コンピュータビジョンの論文を分析し、重要な言葉や構造を洗い出し、イントロダクションのモデルを作成しました。このモデルは他の論文にも適用することができます。今後もブログで論文の書き方や、効率的な研究のためのヒントなど、ゼミで扱っているトピックを紹介したいと思います。
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