Blog
【入社エントリ】企業にいながらアカデミアのように働く
こんにちは。AI Lab NLPチームの三田(@chemical_tree)です。私は先月6月に、大学の特任助教を兼任する形でCyberAgent(CA)のリサーチサイエンティストとして入社しました。大学教員をしながらフルタイムで働くというのは社内的にも初めてのケースだったようなので、本記事では「AI Labではこんな働き方もできるんだ」といったことを知ってもらえればと思い、実際に中で働いてみて気づいたことや入社して約2ヶ月経った現在の所感などについて紹介します。
特任助教をしながらCAへ入社
まずそもそもなぜCAへ?といった入社の経緯について簡単に紹介します。私は前職では理化学研究所革新知能統合研究センターという国の研究機関で約4年ほど自然言語処理の研究者をしていました。またそれと並行して、昨年秋からは兼業という形で東京都立大学小町研究室の特任助教として学生への研究・教育指導を行っていました。そんないわゆるアカポス研究者の私が企業に移ろうと思った理由は大小様々ありますが、大きなところでいうとアカデミアで研究していく上でモデルの(自動)評価に限界を感じたことです。これまで主に実世界への適用性を指向した研究を行っていたこともあり、開発された技術が実際にエンドユーザにどの程度効果があったのかといった効果検証(外的評価)や、またその外的評価を十分に反映したより良い内的評価基盤の構築まで踏み込んで研究してみたいと思うようになったのですが、それらを実現するにはアカデミアではどうしても限界があると感じていました。一方で、大学教員として学生指導を行うことにも少しずつやりがいや面白みを感じ始めていたのと、研究者個人の裁量が大きく柔軟性の高いアカデミア的な働き方に居心地の良さを感じていたため、企業選びの際はアカポスとの兼業が可能かどうかも含め、アカデミアとの親和性を一つの軸にしていました。
最終的にはCAないしAI Labが最も私の要望にマッチしてそうだと判断して入社を決めたわけですが、一つ印象に残っているエピソードとして、カジュアル面談時に特任助教の兼業可否について人事の方に相談したところ「前例はないですがすぐに確認してみます!」と言ってくださり本当にその日中くらいに許可をいただいたというのがありました。前例がないケースにも前向きに検討するという会社のスタンスや、意思決定のスピードがとにかく早いという点が個人的には非常にポジティブに感じました。特任助教の兼業については実際に入社してから実現しており、現在はリモートでの週1回3時間程度の定例ミーティングを基本とし、そのうち月に1回は大学に物理的に出勤するという運用をさせてもらってます。物理出勤は移動などのオーバーヘッドが大きくその分リモート勤務よりも本業の時間が削られてしまうのですが、定期的に対面で直接議論する場を設けた方が研究室運営的な観点からは良いという知見がこれまでの経験上あったため、会社やチームの理解を得た上でこのような柔軟な働き方をさせてもらえているのはありがたいなと感じています。
AI Labはアカデミアとの親和性が高い
実際に入社してみてまず思ったのが、想像してた以上にAI Labはアカデミアと近い雰囲気だということです。一つは、研究テーマの設定に関してです。一般的な企業研究所だとどうしても事業に即した研究テーマに縛られるイメージがありますが、AI Labではテーマの制約はほぼありません。AI Labでは、事業貢献と学術貢献の両方を組織のトップゴールに掲げているのですが、それら二つのゴールは組織やチーム全体として達成できていればよいという考え方なので必ずしも一つの研究テーマでANDをとる必要はないのです。実際、私の所属するNLPチームでも学術貢献に振り切った研究プロジェクトも動いています。また、テーマの設定方法に関しても完全に個人の裁量に委ねられています。企業によっては研究テーマを決めるのに事業部の偉い人の前でプレゼンしてその人たちを説得させる必要があるというような話を聞いたりしますが、AI Labではその必要はありません。
二つ目は、論文投稿、採択が称賛されることです。もっというと、論文投稿数や採択数が組織全体の目標設定の項目の一つに明示的に入ってたりします。また、会社がターゲットとしている一部の会議や論文誌に対象は限られますが、論文が採択されるとインセンティブとして報酬金がもらえる制度もあります。これはこれまでどれだけ論文を通しても金銭的な報酬は一切なかったアカデミア出身の私からすると結構驚きでした。このように学術貢献を単に企業のPRとして謳ってるのではなく、組織としてそれを本気で追求しているんだということが伺えるような仕組みや工夫が社内にたくさん存在することが実際に中に入ってみることでわかりました。
三つ目は、研究に専念できることです。こう書くと研究組織なのだから当たり前だろうと思われそうですが、他の企業でも研究職ポジションの採用を募集しているところはたくさんありますが蓋を開けてみると実際には開発ばかりやっているという話を聞くことは少なくありません。AI Labでは、プロダクト毎にエンジニアやデータサイエンティストの方々がいて、研究と開発の分業体制がしっかり整備されているため、研究者が研究に集中できる環境があります。
企業研究所ならではの魅力
アカデミアとの親和性が高いという話をしましたが、もちろん企業研究所ならではの魅力もたくさんあります。実際に入社してみてわかったAI Labならではの魅力の一つに、事業部との接点が多いことが挙げられます。特に私の所属するNLPチームは、効果の出せる広告テキストを自動生成するAI「極予測TD」のプロダクトチームと方々と一緒に仕事をさせていただくことが多いのですが、生成テキストを実際に配信して効果測定できる外的評価環境が整備されてるのはもちろんのこと、プロダクトチームと距離が近いため、広告理解・広告効果に関する現場レベルでの定性・定量的なナレッジを直接共有していただく機会もあります。また、事業課題をヒアリングしていく中で研究の良い着想を得ることもあります。ただし、全ての事業課題をLab側で引き取ってそのまま研究課題に置き換えるのでなく、その課題がアプリ側で解決できる(すべき)ものか、研究レイヤーで解決すべきものかという見極めも必要になってきます。特にCAでは上述した通り、プロダクトチームにエンジニアやデータサイエンティストの方々がいるため、我々Labの人間が解くべき課題なのか、仮に解くならば本質的な課題は何か、といったようなことを一段抽象化して考え、学術的にも訴求できる形で研究課題に落とし込むことが重要であり、企業研究者としての腕の見せどころでもあると思っています。実際に研究課題として落とし込む際も、研究とは事業部に渡すための前段階であるため完璧である必要はなく、新しいことに柔軟に対応できる枠組みになっていることが重要だと考えます。このあたりが、企業研究者ならではの難しさでもあり、やりがいに繋がってくるのかなと想像しています。また何より、目の前で困っている(事業部の)人たちをみると解決してあげたいという気持ちになって研究のモチベーションが自然と向上・維持できるのもいいなと思ってます。せっかくアカデミアから企業に移ったからには、学術貢献も大事ですがまずは事業課題の解決を通してしっかり事業に貢献し、自分たちの研究が誰かの役に立つ、という経験をしてみたいですね。
おわりに
今回の記事では、大学の特任助教を続けながら企業研究者として働く私自身の経験を通して、AI Labという企業の研究組織にいながらアカデミアに近い環境で働くことができることを紹介しました。個人的には、アカデミアとインダストリの境界線が少しずつなくなっていく流れの中で、弊社に限らず、今後このようにアカポス研究者と企業研究者の二足のわらじを履くキャリアモデルがどんどん増えていってほしいなと思っています。
最後に宣伝となりますが、AI Labでは研究者を引き続き募集しています。
Author