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CA Basecamp 2019解説:クリエイティブのための機械学習
こんにちは、AI Labでデジタル広告の表現に関する研究に取り組む山口です。
この記事では2019年2月22日に行われた、サイバーエージェントグループの開催するエンジニア・クリエイター向けカンファレンスCA Basecamp 2019にてAI Labから発表してきた「クリエイティブのための機械学習」について解説します。この発表はAI Labがデジタル広告の表現分野においてどのような課題に立ち向かい、どのようなプロジェクトを研究開発として取り組んでいるのか、社内のエンジニア、クリエイター、そして招待された学生向けに解説したものです。
当日のスライドはこちら。
https://speakerdeck.com/kyamagu/ca-basecamp-2019-kurieiteibufalsetamefalseji-jie-xue-xi
デジタル広告制作の課題
デジタル広告はインターネット上で見られるバナー、動画、テキストなどの広告のことです。様々な広告表現の形態がありますが、まとめて広告クリエイティブと呼ばれます。デジタル広告では、テレビCMや新聞広告といったいわゆるマス広告とは決定的に違い、一人一人に異なる広告を届けることが可能という特性があります。一人一人に合わせ、対象を限定して広告を配信することはターゲティングと呼ばれ、今日のデジタル広告が高い広告効果を示す原動力となっています。
ターゲティングが行われるようになることで、広告クリエイティブの制作に新たな課題が生じるようになってきました。各種の広告表現は、日本国内の広告市場では一般的に弊社含む広告代理店が制作を担っている場合が多数で、広告表現はデザイナーやプランナーといった、制作に携わる人が一つ一つ丁寧に作ります。従来のマス広告では全ての人に同じ表現が届けられるため、制作者はできるだけ多くの人に視聴されるように一つの広告表現を作り上げていきます。しかし、デジタル広告ではターゲティングが導入され、広告配信がより細分化されたことで、特定の趣向を持ったユーザー層にそれぞれの広告表現を作り分けることが必要になりました。一人一人に異なる広告が表示されるということは、一人一人に合わせてパーソナライズされた広告を作る必要が生じてきたわけです。基本的に広告表現は全て人手で作られてきたため、作るべき広告表現が増えれば増えるほど制作側に負担が生じるようになってきました。例えば10億のユーザーが存在すれば、10億の広告表現があり得るわけですが、これを全てデザイナーやプランナーが手作業で作ることは現実的ではありません。また、デジタル広告では似通った広告表現を見る機会が増え、すぐに飽きられてしまう傾向も近年加速し、一つのクリエイティブの寿命が短くなってきています。広告クリエイティブの制作者は質の高い広告を大量に作り続けるという、これまでにない課題に向き合うこととなりました。
AI Labでは広告クリエイティブを制作・配信する過程で機械学習を用いた技術により、この課題の解決を目指しています。例えばクリエイティブのクリック率を事前に予測することで、配信の効率化、制作者へのフィードバックを行うことが可能となります。制作編集にまつわる作業プロセスを自動化したり、あるいは新たな表現手段を作ることで、より良い広告表現を多く作ることができるようになります。また、データ分析を自動化することで、配信される広告からの知見を素早く制作に活かせるようになります。以下の節で、AI Labの取り組むプロジェクトをいくつか紹介します。
クリック率の予測
与えられたバナーやテキストなどのある広告に対し、どれだけクリックがなされるかを機械学習手法により予想します。クリック予測は、一般にクリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)といった指標に関し、回帰分析問題として捉えることができます。回帰分析自体は基本的なロジスティック回帰や決定木といったモデルから、複雑な階層構造のニューラルネットワークまで様々なモデルで取り扱うことが可能です。広告クリエイティブでは画像、テキスト、広告配信設定といった情報が入力として利用可能なため、それらの入力に応じて適切なモデルを選択して予測モデルを構築します。一般的にはスパースな入力には浅い機械学習モデル、画像やテキストなどの次元が大きくなりがちな入力にはディープラーニング系のニューラルネットワークが用いられます。
クリック率予測を広告入稿時の判断に用いることで、実際に広告運用実績を改善した事例も弊社内で見られます。クリック率の予測はデジタル広告を運用する上で欠かせない機械学習技術となっています。
制作編集支援
制作編集に関しては、デザイナーやプランナーが行うプロセスの助けとなるような技術を研究開発しています。例えば、新しいバナー画像をデザインする際に、新しいデザイン要素をどこに置くかを予測することで、グラフィックス要素の配置作業を効率化できると期待されます。あるいは、既存のバナー画像から人物写真を自動で差し替えることで、そのバナー画像のバリエーションを自動的に効率よく制作することが可能となります。
実際の制作作業の支援だけでなく、新たな表現を作り出す試みも行なっています。例えば、画像の画風を変換する機械学習モデルを用いることで、これまでにないタッチのイラストを作り出したりできます。これによって、例えば広告配信メディアに合わせた雰囲気のバナー画像を作り出したりできる可能性があります。
画像だけでなく、テキスト広告の運用でも機械学習技術を用いた支援を行なっています。わかりやすい一例として、あるWebページの検索連動広告を自動的にそのページ自身から生成するという試みがあります。検索連動広告は検索サイトのクエリに応じて主にテキストでランキング内に表示される広告ですが、広告内容に掲載する文言は基本的に広告の運用担当者が一つ一つ入稿する必要がありました。自動生成を使うことでより適切な文言を効率的に選択することが可能となります。社内先行テストでは既に広告運用実績が実現できることが示されています。
広告バナーの自動分析
AI Labではバナー広告の内容を自動的に理解する手法を研究開発しています。広告内容を自動的に分析・理解することで、データから統計的な知見を得ることが可能となります。広告の内容は人工的なイラストや複雑なレイアウトといった視覚的要素が含まれ、一般的な自然画像向けの画像認識モデルではうまく取り扱えません。ただし、広告ならではの特徴として、画像の中身を問わず、バナー広告にはほとんど必ず訴求を示すテキストが含まれます。以前の記事で紹介した通り、この広告訴求テキストに関する知見を元に、AI Labでは画像とテキスト検出をうまく組み合わせたモデルを使って2018年に開催された広告画像理解のコンペティションを勝ち抜きました。
バナーに限らずあらゆる広告クリエイティブを自動的に認識することで、テキストによる訴求内容や表示されていた物体に関する統計的なデータ分析が可能となります。これにより、例えば特定のキーワードが最終的なクリック率に影響するといった現象を発見することが容易になります。安定した統計的データ分析のため、AI Labでは広告データに合わせた画像テキスト認識モデルを研究しています。
おわりに
機械学習は既にデジタル広告の運用に欠かせない技術となっています。機械学習による広告クリエイティブの自動生成はまだまだ実現していないことが多くある領域ですが、AI Labではこれからもクリエイターの能力を拡張するような新しい技術、新しい表現技法を実現すべく研究開発に取り組んでいます。
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