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【採択論文紹介】対話型販促ロボットにおける設計上の落とし穴の体系化(CHI 2025 LBW)


AI Labの岡藤です。本記事では、対話型販促ロボットを実運用する上での落とし穴についてまとめた論文(CHI 2025 LBW)を紹介します。

論文名:Design Pitfalls in Interactive Sales Robots: A Systematic Analysis and Framework

著者:Yuki Okafuji, Takuya Iwamoto, Sichao Song

AI Labの中でも接客対話領域を担っている研究チームでは、実際の店舗や施設内に対話ロボットを設置して有効性を検証する、数多くのフィールド実験を実施してきました(2017年〜、フィールド実験数 約80回、査読論文64本)。その中でも対話型販促ロボットの実証実験も多くを占めており、それらの経験を踏まえた上で、対話型販促ロボットを実運用する上で気をつけるべき点を体系化してまとめることで、実証実験や実運用をする上でのチェックポイントになり得るものを作成とすることを目的とした研究になります。

はじめに

店舗で接客ロボットを活用する際には、外観やふるまいが顧客体験を大きく左右します。本研究は、インタラクティブ・セールスロボットの“設計上の落とし穴 (Design Pitfalls)” を網羅的に整理し、今後のロボット設計を支援するフレームワークを提案したものです。

研究背景

従来の HRI(Human-Robot Interaction)の研究では、ロボット導入の成功事例に焦点を当てる傾向があり、失敗や課題は暗黙知として扱われることが少なくありません。本研究は、こうした課題を形式知化し、実運用で再発しがちな問題点を事前に除去することを目的としています。

研究方法

以下の3つ段階の流れによって研究を実施しました。

  1. アイディア収集:ロボット研究者13名によるオンラインワークショップ(5回)に加え、補助的にGPT-4*を活用。全部で423件の「ユーザから見てロボットの望ましくない振る舞い」の収集。
  2. 結果分類:著者らによって、5つの主要カテゴリ・26のサブカテゴリに整理
  3. 妥当性検証:オンラインサーベイを活用して、一般利用者98名によるカテゴリ別の評価

代表的な落とし穴(カテゴリ別抜粋)

主要カテゴリ 代表的な落とし穴の例
(a) 倫理・社会的違反

年齢・性別などに基づく不適切なレコメンド(差別的発言)、プライバシー侵害、攻撃的発言、埃や汚れが付着したまま接客(不衛生な外観)

(b) 店舗・商品に不適切なロボット選定 高級ブランド売場にチープな外観のロボットを配置、肉製品売り場で動物型ロボットが豚肉を勧める、大型ロボットが通路を塞ぎ通行を妨害
(c) 機能不足

多言語未対応で外国人顧客に応答不能、在庫情報と連携せず売切商品を勧める、音声認識精度が低く聞き返しが頻発

(d) インタラクション機会を阻害する環境要因

目線より低い位置に設置され視認性が悪い、奥まった棚の陰で顧客から気づかれない、ロボット周辺に段差があり子どもが近寄れない

(e) 継続利用を阻害する振る舞い 過度な圧迫接客、不自然な常時スマイルで逆に不気味、スタッフとの連携不足

実務への示唆

  1. チェックリストとしての活用
    設計段階で 26 サブカテゴリを照合することで、潜在的な失敗要因を早期に検出できます。

  2. ユーザ評価スコアによる優先度付け
    各サブカテゴリの“不快度”スコアを用いれば、改善優先度が定量的に判断できます。

  3. 文化・業種横断での応用可能性
    本フレームワークは小売以外の公共施設やサービス業にも適用範囲を拡張できると考えられます。

おわりに

実フィールドでの対話型のロボットの設計に課題を感じていたり、実証実験や導入を検討しているような企業・研究者の皆さまは、ぜひ現地で議論の機会をいただければ幸いです。

 

また、我々のチームでは一緒に Human-Robot Interaction / Human-Computer Interaction の研究・開発を行っていただける研究者・エンジニア・博士インターン生を募集しています。本ブログを見てご興味を持って頂けた方は是非一度カジュアルにお話させてください。よろしくお願いします。

*GPT‑4 は、OpenAI 社が開発した大規模言語モデル(生成 AI)の名称です。