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郡山市の保育所利用調整基準改定: シミュレーションによる検証


こんにちは。サイバーエージェントAI Labの竹浪です。今回はAI Labの森脇さん、Wuさん、松木さんと私が東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)と共に取り組んできた、福島県郡山市の保育所利用調整基準の改定について紹介します。

2024年4月入所から、郡山市の新しい保育所利用調整基準により、兄弟姉妹がいる家庭はより多く加点され、保育所に入りやすくなることが期待されています。これは、私たちが郡山市と2022年9月より取り組んできた「保育所の利用調整基準の改善」に関する実証実験の成果の一つです。

背景

保育所に入所するためには、まず自治体への申し込みが必要です。しかし、申し込み数が保育所の入所枠を上回る場合、自治体は「利用調整基準」に基づいて子供たちの優先順位を決定します。この「利用調整基準」では、各家庭の就労状況や世帯の状況など、保育が必要な理由を具体的に評価し、それを点数化します。そして、得られた点数が高い順に優先順位が決まります。例えば、郡山市では両親がフルタイムの労働をしていると200点+200点=400点というように点数化されます[1]。最終的に、この優先順位と保護者の希望に基づき、入所できる保育所が決定されます。優先順位は、社会厚生の最大化などの目的に従って、適切に決定される必要があり、さまざまな提案がされています[2][3][4]。

今回、郡山市が問題として認識していたのは、兄弟姉妹の同所入所です。

兄弟姉妹を保育所に通わせたい場合、なるべく同じ保育所に通わせることが望ましいと考えられます。なぜなら、兄弟姉妹が異なる保育所に通うと、保護者と子供たちの両方に負担がかかると考えられるからです。川崎市の資料[5]によれば、以下のような負担があげられています。

  • 異なる保育所に通うことで生じる保護者の負担:複数の保育所への送迎、各園の異なる準備要件、就労時間の制約、重複する学校行事への対応など
  • 異なる保育所に通うことで生じる子供たちの負担:異なる保育所への送迎による生活リズムの乱れや、体力的・精神的ストレスなど

さらに、兄弟姉妹が同じ保育所に通えないことで入所を諦め、結果として就労を断念するケースも考えられます。このような負担を考慮すると、多くの保護者は兄弟姉妹が同じ保育所に通うことを望んでいると思われます。

しかし、兄弟姉妹を同一の保育所に入所させる際には、以下のような問題が浮き彫りになります。

  • 兄弟姉妹全員が同じ保育所に入るためには、全員分の空き枠が必要となり、入所難易度を高めている
  • 上の子が在籍している保育所を下の子も希望するなど、通園可能な選択肢が少なくなりがちなことが入所難易度を高めている

このような問題を解決するためには、兄弟姉妹に関する利用調整基準の見直しが有効と考えられます。実際、神奈川県横浜市[6]や川崎市[7]では、このような基準の見直しを実施しています。

課題

郡山市の利用調整基準では、兄弟姉妹が同時に申し込んでも特別な加点がなかったため、一人の子供だけで申し込む場合と比べて、兄弟姉妹が一緒に申し込む場合の入所が難しい状況でした。

図1をご覧ください。これは郡山市における2022年の実際の割り当てにおける点数と入所率の関係を表しています。ここでは緑の線が単独での申し込みを表し、黄の線が兄弟姉妹での同時申し込みを表しています。図の左側、点数が低いグループに注目すると、黄の線が緑の線を大きく下回っています。これは、点数が低いほど兄弟姉妹での申し込みの入所率が単独での申し込みに比べて低くなり、その差が大きくなることを示しています。つまり、同じ点数の子供でも、兄弟姉妹で申込む場合、単独で申し込む場合に比べて保育所への入所可能性が低くなっていることがわかります。図2(2023年の実際の割り当て)においても同様の関係がわかります。

郡山市2022データにおける実際の割り当て

図1 2022年の実際の割り当てにおける点数と入所率の関係

注:この図は、一般化線形混合モデル(GLMM)を用いたロジスティック回帰の結果を示しています。単独申込をした方と兄弟姉妹同時申込をした方とにデータを分け、それぞれのグループにおいて、加点する前の点数と入所できたか否かの関係を表しています。他の図2〜4も同様です。

郡山市2023データにおける実際の割り当て

図2 2023年の実際の割り当てにおける点数と入所率の関係

この問題を解決するために、郡山市はルールを見直し、兄弟姉妹が同時に申し込む際には追加の優先点を付けることを考えました。この改善により、兄弟姉妹が一緒に同じ保育所に通えるようになることを目指し、子供が複数いる家庭をより支援することを目指しました。

解決手法

兄弟姉妹への加点を導入しながらも、公平な入所を実施するためには、適切な加点の基準が必要です。しかし、その基準をどう設定するべきかは明らかではありませんでした。そのため、私たちは東京大学マーケットデザインセンターの小島教授、鎌田准教授のアドバイスを踏まえながら、望ましい基準を探るためにシミュレーションを行いました。今回は、兄弟姉妹がいない場合と兄弟姉妹が同時に申し込む場合とで入所率に差があることから、どちらの申込でも入所率が均等になるような加点を検討しました。

また、郡山市とシミュレーションの検討を重ねていくに連れ、より具体的な要望が郡山市側から出てきました。当初は、兄弟姉妹に点数を足したいという要望でしたが、対話を重ねるうちに、特定の属性の方々についてこのような順番で優先したいという要望が郡山市から出てきました。このような郡山市の要望を前提にシミュレーションを実施することで、より具体的な優先順位の設定が可能となりました。

シミュレーションの詳細

入所率が均等になるような加点を検討するために、郡山市から提供された匿名化された申込者データ(2022年と2023年の一斉入所データ)を使用してシミュレーションを行いました。シミュレーションの手順は以下の通りです。

  1. 兄弟姉妹で申し込む申込者に対して加点する点数を設定しました。今回は10点から300点まで試しました。
  2. 兄弟姉妹がいる申込者に点数を加算した後、AI Labの孫さんが中心となって開発した利用調整アルゴリズム[8]を用いてマッチングを行い、単独で申し込む方や兄弟姉妹で申し込む方の入所率を計算しました(アルゴリズムの詳細はこちら)。
  3. それぞれの入所率ができるだけ等しくなり、全体の入所率が現状より悪化しない点数を探索しました。

私たちはシミュレーションの結果を基に、加点すべき点数の提案を郡山市に行いました。その後、郡山市内部で議論され、最終的な点数が決定されました。

結果

郡山市2022データにおけるシミュレーション結果

図3 2022年の制度変更案における点数と入所率の関係

郡山市2023データにおけるシミュレーション結果

図4 2023年の制度変更案における点数と入所率の関係

図3と図4をご覧ください。これは兄弟姉妹に加算をしたあとの点数と入所率の関係を表しています。緑の線が単独での申し込みを表し、黄の線が兄弟姉妹での同時申し込みを表しています。図1と図2では左側の点数が低いグループにおいて黄の線が緑の線を下回っていました。しかし、図3と図4では黄の線と緑の線が重なるような軌道となり、差が小さくなっています。つまり、加算後のシミュレーションにおいては、同じ点数の子供であれば、兄弟姉妹での申し込んでも単独で申し込んでも保育所への入所率は差がなくなっており、加算がない場合に比べて公平に扱われていることがわかります。

この新しい利用調整基準は、2023年11月1日から始まる2024年4月一斉入所の申込から適用されます。新しい基準により、兄弟姉妹がより入所しやすくなり、同じ保育所に通う子供の割合も増えると期待しています。

振り返り

この実証実験で苦労した点を振り返ると、まず具体的な基準を設定するのが難しかったことが挙げられます。当初、兄弟姉妹に加算する方針だけは決まっていましたが、その目的は明確ではなく、まずはその目的を決定することが重要でした。詳しいデータ分析から、兄弟姉妹同時申込者と単独申込者の間で入所率に差があることがわかり、この差を公平にすることが必要だと認識しました。

さらに、兄弟姉妹以外の申込者に対しても公平に配慮し、優先順位をどう設定するかが重要となりました。優先順位の設定には、保育所という福祉制度の観点から、自治体ごとの方針が反映されるべきです。しかし、これらの価値基準は一定ではなく、客観的な基準も存在しません。今回、郡山市と私たちとで対話を重ねることで価値基準を伺うことができ、それに合わせて点数の設計を行いました。

このように、データ分析以外にも、自治体との対話を続けることが重要だと認識しました。自治体固有の方針やニーズを理解することは、公平で効果的な制度を設計するために不可欠だからです。

終わりに

私たちとUTMDは、今後も郡山市とともに「保育所の利用調整基準」や「利用調整アルゴリズム」に関する実証実験を継続します。今後の一斉入所が完了した後、今回の基準改定が期待した効果をもたらしたかを確認するために、効果検証を行います。効果検証の結果は論文にまとめ、証拠に基づく政策作成(EBPM)の進歩的な取り組みとしての知見を共有する予定です。

今回の基準改定に限らず、

  • 利用調整ルールの変更
  • 保護者への情報提供のあり方
  • 職員負担を軽減し待機児童を最小化する利用調整システムの提供

など、私たちのさまざまな取り組みにご興味がある自治体の方は、こちらからご連絡をいただければ幸いです。

参考文献

[1] 郡山市.(2022).郡山市保育施設等の利用調整及び保育の必要性の認定に関する事務取扱要領 https://www.city.koriyama.lg.jp/uploaded/attachment/36090.pdf

[2] Bodoh-Creed, A.L. (2020). Optimizing for Distributional Goals in School Choice Problems. Management Science, 66(8), 3657-3676.

[3] Shi, P. (2021). Optimal Priority-Based Allocation Mechanisms. Management Science, 68(1), 171-188.

[4] Çelebi, O., & Flynn, J.P. (2022). Priority Design in Centralized Matching Markets. The Review of Economic Studies, 89(3), 1245-1277.

[5] 川崎市.(2023).「保育所等の利用における多子世帯支援の拡充に向けた取組について(案)」意見を募集します https://www.city.kawasaki.jp/templates/press/cmsfiles/contents/0000151/151828/houdou.pdf

[6] 横浜市.(2023).令和6年4月入所に向けた「横浜市給付認定及び利用調整に関する基準」の一部改正について(意見公募)https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/hoiku-yoji/shisetsu/hoikuriyou/r06kijunkaisei.html

[7] 川崎市.(2023).保育所等の利用における多子世帯支援の拡充について https://www.city.kawasaki.jp/450/page/0000154113.html

[8] Sun, Z., Takenami, Y., Moriwaki, D., Tomita, Y., & Yokoo, M. (2023). Daycare Matching in Japan: Transfers and Siblings. Proceedings of the AAAI Conference on Artificial Intelligence, 37(12), 14487-14495.