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EBPMデータベースを作った理由


経済学社会実装チームの森脇です。

本日、証拠に基づく政策(Evidence-Based Policy Making, EBPM)を促進するためのプラットフォーム、EBPMデータベースをリリースしました。このウェブサイトは査読付ジャーナルから政策現場における簡単なデータ分析までさまざまなレベルの政策に関するエビデンスを集めて共有することを意図したプラットフォームです。

大学やシンクタンクの専門家、行政組織の実務家などに政策効果に関する簡単なサマリー記事を「レビュー」という形で登録してもらい「データベース」化することで、政策を検討する際に過去の類似例の検証結果について参照できるようにしています。

EBPMデータベースのコンテンツは専門家のみなさまにどんどん追加していただきたいのですが、取り急ぎイメージを共有するために教育、医療、少子化の3分野について10本程度のレビューを掲載しています。いずれも分野の専門家が選定した査読付ジャーナルからの質の高いエビデンスを集めています。協力いただきました、伊藤寛武さん高橋雅生さん茂木良平さんにはこの場をお借りして御礼申し上げます。

EBPMは政府における議論がはじまった2017年ごろからバズり始め昨年急速に認知されるようになりました。厚生労働省では因果推論手法を用いた政策効果分析が発表されるなど着実に取り組みが進んでいます。私自身も中央省庁から政策のデータ分析に関するヒアリングを受ける機会があり政府におけるニーズの高まりを感じているところです。

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EBPMの検索数(Googleトレンド)

人的・財政的に慢性的なリソース不足に陥っている行政組織にとって、限られたリソースを有効な政策に振り向けることは喫緊の課題です。国の経済政策の司令塔である経済財政諮問会議においてEBPMアドバイザリーボードがエビデンスづくりを進めていますし、今年4月、経済産業研究所にEBPMセンターが設立されています。こうした、政府の取り組みはGoogleをはじめとするテック企業がA/Bテスト(ランダム化比較実験)によって客観的なエビデンスに基づいてサービスの改善を繰り返して成長してきたことと付合し、時代の趨勢と言えます。

EBPMデータベースの提供する価値

EBPMデータベースでは、主に3点の価値を提供したいと思っています。

低コストのEBPM

中央省庁のEBPMの取り組みは、「データを分析して」「証拠を生み出す」ところにフォーカスしているように見受けられます。日本最大のシンクタンクといわれ独自の研究所や傘下の研究独法をもつ中央省庁はともかく、自治体の現場でEBPMのためのデータ分析を行うのは容易ではありません。データ収集、分析、結果の活用という三段階のなかで、データエンジニア、データアナリスト、そして何より解析結果を幹部や議員に説明して意思決定を促す政策コンサルタントと、複数種類の専門家が揃うことはなかなかないと思います。

EBPMデータベースでは、すでに専門家がデータ収集と分析を行なった結果がレビューというかたちで投稿されています。適当なレビューを探して最後の意思決定の部分から始めることができます。必要なエビデンスが十分整理されていないといったご要望はお気軽にGitHubもしくはebpm@cyberagent.co.jpまでご要望ください。

EBPMについてのオープンな議論

EBPMデータベースのような試みは、諸外国でWhat Worksとかエビデンスストアといった名称で多数公開されています (注1)。しかし、これらは一方通行の情報提供にとどまり、研究者や政策現場とのインタラクションが難しくなっています。

EBPMデータベースでは、GitHubにソースコードをすべて公開しており、自由にレビューの追加や修正要望をできるようになっています。研究者の方がご自身の研究をアピールする場として使っていただくもよし、なんちゃって専門家によって歪んだ世論を糺すために分野で認められた高品質のエビデンスを追加していただくもよし、政策現場の方が実施してみたデータ分析結果を投稿していただくもよし、自由に使っていただければ幸いです。また、投稿されたレビューについての改善も歓迎しています。

政策現場とアカデミアの結節

COVID-19を契機に政策決定過程における専門家の役割が改めて議論されています。頑健なエビデンスをじっくり作り上げることに長けた専門家が、意思決定のためにオンデマンドなエビデンスを短時間で生み出す必要がある政策現場で何ができるのか。

急ぐあまりエビデンスの質が落ちれば仲間内から批判され、エビデンスの生産が遅いと政策現場からは見放されるという板挟み状況が改めて浮き彫りになりました。逆に、政策決定側は専門家に過剰に責任を負わせる構図も批判の対象となりました。

このような状況を打開するためには、EBPMデータベースを通じてエビデンスをつくる人と使う人が交流することでお互いの言語やインセンティブ、制約について相互理解を深めることで協働体制をつくっていくことが有用ではないかと思います。

既存のエビデンスについて共有するだけでなく、行政の現場での実証実験に専門家が参加し、その結果得たデータを論文化してまたEBPMデータベースに投稿するといったサイクルが生まれることを期待しています。

最後に

EBPMデータベースは開発途上のツールです。たくさんのレビューを投稿していただくとともに、実際に政策現場のユーザーに使った感想をフィードバックをいただき発展させていければと思います。

 

注1: What Works Clearing House, What Works Center for Local Growth  Education Endowment Foundation Teaching and Learning Toolkit  Kopernik Solution Catalog  J-Pal Crime Reduction Toolkit What Works For Children’s Social Care 3ie Development Evidence Portalなど

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moriwaki