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NetSciX2020に参加しました
AI Labの森脇です。
1月20日からNetSciと並ぶネットワークサイエンスの代表的なカンファレンスであるNetSciXが早稲田大学で開催されました。
私は聴講だったのですが、昨年夏のAI Lab博士課程インターンに参加していただいた南カリフォルニア大学の松井暉さんが初日にポスター発表をされました。
この研究は、消費パターンにどのようなデモグラフィックな(人口統計学的な)属性が現れているかを調べるために、テンソル分解という機械学習の手法を使って、データから消費パターンを抽出し、デモグラフィックな情報との関係性を分析していました。
また、サイバーエージェントからは、秋葉原ラボの高野や武内もポスター発表しました。
招待講演
今回の目玉はなんといっても3日めのバラバシ教授[wikipedia]の招待講演です。
バラバシ教授の名前は、ベストセラー「ザ・フォーミュラ」で一般にも知れ渡っていると思いますが、現在のネットワークサイエンスの隆盛の礎を築いた方です。講演は、ネットワークサイエンスの試みの中で特にネットワークをコントロールすることに重点をおいたものでした。ここでネットワークと言っているものは、自動車の数千もの部品に分解した図であるとか、企業間ネットワークであるとか、ニューロンのつながりであるとか、ありとあらゆるものを指します。
ネットワークをコントロールできるかどうか(=制御可能性)というのは、小さいネットワークであれば理論的に特定できるそうですが、大きなネットワークだと計算コストがかかりすぎるため、近似的なアルゴリズムを用いる必要があります。バラバシ教授らのNature論文は、現実のネットワークにおける制御可能性の分析ツールを開発した上で、どのようなネットワークがコントロールしやすいのかを示しています。
バラバシ教授らは、さらにC.エレガンスという小さな線虫を用いた実験で制御可能性の理論を実証していました。C.エレガンスは非常に単純な生物で、外部から刺激を与えるとそこから逃げるように運動します。この刺激−反応の関係は、感覚器から受け取った入力をいくつかのニューロンを介して筋肉の動作として出力するまでの一連のネットワークと解釈できます。研究では、生物学者らとタッグを組んで、Cエレガンスの行動とニューロンのネットワークを実験によって分析していました。ネットワークという切り口でありとあらゆる現象を分析する観点だけでなく、情報系から生物系まであらゆる分野の研究者と共同して研究を進めてきたすがたに圧倒されました。
FinEcoNets
最終日の1月23日は、経済や金融におけるネットワークに関する研究をあつめたWork shop on Financial and Economic Networks (FinEcoNets)が開催されました。
冒頭にゲーム理論の大家である東京大学の神取道彦教授の講演がありました。
残念ながら私自身は最後の方しか出席できなかったのですが、松井さんが代わりにレポートを書いてくれたのでここに紹介します。
OLG繰り返しゲームが労働組合員間での協力メカニズムを説明するご自身(S. Obayashiと共著)の研究発表でした。
まず、ネットワークサイエンティストにゲーム理論の分野の1つである繰り返しゲームについて簡単な説明を行い、どのようにして理論を現実世界で説明するかという視点で研究を議論されていました。
現実社会の例として、労働組合において組合員同士の協力が行われている点を指摘され、実証的にどのようなメカニズムが協力を生み出すのかをいくつかの仮説を検証しながら分析していました。
いくつかの対立する仮説を分析した結果、OLG繰り返しゲームが労働組合員間での協力メカニズムを説明しうることを報告され、最後には聴衆からはネットワークサイエンスの視点から多くの議論/質問が行われました。
今回の発表では、サーベイとインタビュー調査によるデータ取得によって協力関係のネットワークデータを作った点、対立する仮説を丹念に検証されている点が印象に残りました。
私は最後の質疑部分に間に合ったのですが、神取先生から会場に対してネットワークサイエンス的に刺さる研究はどのようなものかと逆質問していたのが印象に残りました。
このワークショップでは、他にも早稲田大学の戸堂康之教授から生産性や災害等のショックに対する強靱性などと、各企業や個人がもつネットワークとの関係性についての一連の研究が示されるなど、様々な経済、金融データをネットワーク的視点からみた研究が発表されており、非常に刺激になりました。
3日目のバンケットではバラバシ教授、大会委員長の佐山弘樹教授と写真をとってもらいました!
ネットワークサイエンスど素人の私と気軽に写真をとってくれるネットワークサイエンスコミュニティの温かさに感動したカンファレンスでした!
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