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【採択論文紹介】Service Robots in a Bakery Shop: A Field Study


AI Lab接客対話グループの宋です。接客対話グループはHuman Agent Interaction、Human Computer Interactionを中心に研究を行なっています。今回は、ロボティクス分野の国際会議「IROS 2022」(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)」に採択された論文を紹介します。

論文名:Service Robots in a Bakery Shop: A Field Study

研究背景

近年、ソーシャルロボットについての議論が活発になっている。ソーシャルロボットは人とコミュニケーションすることができるため、従来までの広告に代わる手段として、サービスロボットとして販売促進などでの活用が期待されている。小売業は、顧客とエンゲージするための革新的な方法を常に模索しており、サービスロボットは、顧客の興味や関心を引きつけ、彼らの購買意欲を高めるのに特に有効となることが考えられる。

これまでの研究では、チラシ配りや商品推薦など、さまざまな目的でのサービスロボットの利用が検討されてきた。販売促進に関しては、ショッピングモールや店舗にロボットを設置し、実証実験を通じてサービスロボットの有効性が調査されている。例えば、[1]では、デパートでアンドロイドの販売員が商品を販売した。そのロボットは、二倍以上のお客様に対して接客サービスを提供し、43着の衣服を販売した。

しかし、販売促進への関心は高まっているものの、小売業における適用方法とその効果は不明なままである。サービスロボットの販促や商品推薦の効果を示すためには、様々な小売店を用いたさらなる実証的な証拠が必要となる。さらに、[2]が指摘するように、過去の研究では主に探索的な研究であった。したがって、具体的にどのようなタイプのロボットの行動が効果的で、それに応じて顧客がどのように反応するかについては、まだ明らかにされていない。

実験内容

ロボットの設置箇所のイメージ

本研究では、ベーカリー店舗に2台の遠隔操作型(※オペレータによりリモートで制御される)のサービスロボットを配置した。一台は店頭に設置し、通行人を出迎えながら商品情報をアナウンスし、もう一台は店内に設置し、お客様に特定の商品(パン)を推薦した。全体的な目標は、推薦したパンの売上向上だけでなく、店舗全体の売上を向上させることであった。そのための基本戦略として、多くの通行人を店舗に招き入れることと、多くの商品を購入してもらうことの2つが考えられる。そのため本実験では、役割の異なる2台のサービスロボットを活用した。また、商品推薦におけるロボットの推薦効果を調べるために、お店の全商品の中から数種類のパンをロボットの推薦対象パンとして選んで、これらの商品を他の商品と比較し、売れ行きの変化を観察することも目的であった。

ロボットのパフォーマンスを評価し、研究目的を評価するために、主に以下の項目を評価した。

  • 売上:総売上高、客数、客単価。
  • 店内行動:「推薦対象パンを見た」や「推薦対象パンをトレイに入れた」などのキーアクションを伴う客の行動。

実験結果

ロボット導入による売上への影響(昨年度較)

店舗全体の売上データによると、我々のロボットが導入された日は売上が劇的に伸びた(昨年度と比較して平均138%の伸び率)が、ロボットが導入されなかった日は明らかな伸びを示さなかった。したがって、今回の結果は、サービスロボットが販売促進に有効であることを示しており、既存の少ない実証的証拠を示している。興味深いことに、実験期間中の一日当たりの来店客数は、ロボットの有無に関わらずほぼ同じ水準で推移している一方で、ロボット稼働時には客単価が向上しているため、より多くの商品またはより高額な商品が購入されたことがわかった。

更に、店内に設置したロボットの録画映像の分析からは、ロボットがお客様の購買行動に影響を与えることが示唆された。例えば、「〇〇パンを見て、トレイに入れてくださいね」みたいなロボットの指示が増えたことに伴って、客がそのパンを購入する確率は約2倍となることがわかった。ただし、このようなロボットの指示行動の効果の即時性は確認できていない。つまり、ロボットが指示した直後の顧客の行動に、ロボットの影響が単純に反映されているわけではなかった。しかし、ロボットの指示行動によって、客の推薦対象パンへの興味と関心が高まり、購買意欲の「種」が蒔かれる可能性が示唆されている。

今後の課題

今後の研究において、いくつかのポイントが考えられる。まず、今回の実験では、子供型ロボットを採用した。ロボットの外見は印象や説得力に影響を与える可能性があるため、今後、多様な外見のロボットを用いた研究が行われる必要がある。次に、今回のフィールド調査は一週間以上であったが、まだロボットに対する新規性効果(新しいものに対して興味を引きやすい効果)が多く残っている可能性がある。したがって、サービスロボットの販売促進への活用効果を確認するためには、より長期的な研究が必要である。最後に、本研究では、人との自然な会話を実現するために遠隔操作ロボットを採用した。しかし、特に販売促進という目的においては、コストの問題から自律型ロボットシステムの活用することが重要となる。そのため、今後はこのような自律型システムの開発・検証を行う予定である。

参考文献

[1] Watanabe, M., Ogawa, K., & Ishiguro, H. (2015, April). Can androids be salespeople in the real world?. In Proceedings of the 33rd annual ACM conference extended abstracts on human factors in computing systems (pp. 781-788).

[2] Brengman, M., De Gauquier, L., Willems, K., & Vanderborght, B. (2021). From stopping to shopping: An observational study comparing a humanoid service robot with a tablet service kiosk to attract and convert shoppers. Journal of Business Research, 134, 263-274.