Interview

消費データから顧客の経済行動を解き明かす

松井 暉 / 南カルフォルニア大学

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Interviewee

松井 暉

南カルフォルニア大学

2015 年神戸大学経済学部経済学科卒業. 2017 年神戸大学大学院経済学研究科経済学専攻修了. 修士(経済学). 2017 年より, 南カルフォルニア大学(The University of Southern California)博士課程(Ph.D. Program in Computer Science)所属. 研究領 域は経済学, 計算社会科学.Information Science Institute, the University of Southern California 所属. 主な研究テーマは, デジタルプラットフォームの影響下における人間行動とコミュニケーションの分析

森脇 大輔

AI Lab

2017年サイバーエージェント中途入社。広告プロダクト「AirTrack」データサイエンティストを経て2018年よりAILabリサーチサイエンティスト。経済学/機械学習のオンライン広告への応用やビッグデータ(オルタナティブデータ)による経済予測に関する研究に従事。2015年ニューヨーク州立大学アルバニー校経済学博士。

博士課程の学生を対象としたリサーチインターンシップに参加し、AI LabのADEconチーム(経済学チーム)にて研究を行なっていた松井暉さんにお話を聞きました。

AI Lab のリサーチインターンシップとは

AI Labでは、若手研究者の実務経験価値が向上する機会を提供し、研究者育成に貢献したいと考えており、2018年度から博士後期課程の学生に向けてリサーチインターンシップを行なっています。リサーチインターンシップ中は、実際にAI Labの研究員と共にAI技術を用いた実践的かつより高度な研究テーマの課題解決に取り組み、ゴールのひとつとして各学術分野の国際カンファレンスへの論文寄稿・採択も目指しています。多くの優秀な若手研究者が、企業が保有する実データを用いた研究や社会実装を経験することは、研究者としてのキャリアの可能性を広げるきっかけになると期待しており、AILabでは今年も多くの博士学生の皆さんと研究に取り組んでいます。

 

海外の大学院からリサーチインターンに参加された松井さん。これまでの経歴や研究内容について教えてください。

現在は、University of Sourthern California (USC)の博士課程(Phd in Computer Science)の3年目です。日本では、神戸大学で経済学の学士と修士を取得しました。修士課程までは金融政策を研究していたのですが、USCに入学するときに先行をComputer Scienceに変更しました。いまは、Computational Social Science (計算社会科学)の研究をしています。ゲームユーザーの行動データ分析や、Twitterを使った公衆衛生キャンペーンの研究、機械学習と人間の予測を融合させる研究などに取り組んでいます。

 

どのような経緯で AI Lab の博士リサーチインターンを知ったのでしょうか?

AI Labの経済学チームを偶然知ったのがきっかけです。オープンな雰囲気だったのでインターンに応募しました。経済学チームだと自分の興味のある社会科学的な研究ができそうだったことや、サイバーエージェントは色々なデータを持っていることも魅力的でした。

インターンで取り組んだ消費行動に関する研究がNetSciX2020のポスターセッション採択

 

インターンでは、どのような研究テーマに取り組まれていましたか?

大きなテーマは、消費データを使ったユーザーの行動分析です。最初は、経済学の知見を活かした計算社会科学的な研究ができるといいよねという話から始まったのを覚えています。消費行動はまさに人間の経済的な側面ですし、消費データは大量のデータが存在するので分析にComputer Scienceのテクニックが活かせるので自分のやりたいことと、強みが生かせる良いテーマだと思いました。

具体的には、消費パターンにどのようなデモグラフィックな(人口統計学的な)属性が現れているかを調べる研究です。「いつ・なにを消費した」のかというデータからさまざまな消費パターンを抽出しました。たとえば、ものすごいお金持ちの人の消費パターンは平均的な人の消費パターンと大きく違うはずです。「ものすごいお金持ち」という属性は極端な例ですが、消費パターンと個人の属性はある程度の関係が期待できます。もし、消費データから強く関連している属性を知ることができれば研究・ビジネスの両面に有意義な結果となるでしょう。研究ではテンソル分解という機械学習の手法を使って、データから消費パターンを抽出し、デモグラフィックな情報がパターンに反映されているかを研究しました。

 

今回取組んだ研究において、醍醐味は何でしたか?

沢山ありましたが、ある程度の結果が出て、今後の道筋がたったことが一番よかったです。データや分析結果がどうなるかなど、不安な部分もありましたが、メンターの森脇さんにその都度助けてもらったおかげで乗り切ることができました。何より企業が持っている生のデータを使って研究したのが初めてだったので、それ自体が自分自身にとって良い経験になりました。

また、インターン終了後も、森脇さんとコンタクトを取り研究を進めた結果、今回のインターンで取り組んだ消費行動に関する研究がNetSciX2020のポスターセッションに採択されました。また現在も、論文投稿に向け共著を進めています。インターンに参加して終わりではなく、その後の成果に繋がるような連携を引き続き取らせてもらえることに、感謝しています。

▼NetSciX2020での様子 (NetSciX:ネットワーク科学の中心的な国際会議)

 

 

驚いたのは、部門連携の柔軟性と研究を楽しむ雰囲気

 

「企業研究所」のイメージは、博士リサーチインターンに参加する前と後で、変化はありましたか?

インターン前まで持っていたのは、大学での研究は裁量が大きく、企業研究所では裁量が小さいというイメージです。ですが、AI Labは研究者の裁量が大きく、自由に研究を進めることができました。本当に楽しかったです。

企業での研究のイメージが偏っていたことに気付かされました。よく考えてみれば、大学、特に米国では所属するラボやファンドで研究の方針まで決まってしまい、大学院生の裁量はほとんどありません。また、大学の研究者であってもすべて自分の裁量で決められるわけではないので、裁量という一つの観点で企業と大学を比べるのは誤った見方かも知れません。
AI Labに限って言えば、研究者同士がフェアに議論して、良い論文を書いて査読付き学会や論文誌に投稿するという点では大学での研究と同じに思えました。

企業研究所に対する新たな気付きがあったようですね。その他に感じた大学との違いはありましたか?

大学などの公的機関の研究所と比べて、違う部門同士でも共同して何事にも柔軟に対応している点です。例えば、研究のデータの取得、実験や実証はビジネス部門と関わるところですが、2つの部門がうまく協調しているようにみえました。サイバーエージェントはベンチャー企業だということもあり、何事にも柔軟に対応できる文化があるのかもしれません。このような柔軟性は研究の実行にクリティカルに効いてくるので素晴らしいことだと思いますまた、AI Labは自由な雰囲気が漂っていて、研究を楽しんでいる空気感がありました。こういった雰囲気とか空気感は簡単に作ったり維持したりできないので奇跡的なことだと思います。

海外の大学院からの参加。限られた期間でいかに成果を出すか

 

メンターの森脇さんにお聞きします。
今回のインターンでの研究方針やその成果について、森脇さんが感じたことを教えてください。

(森脇)インターンに入る前に思っていた不安点は二つで、一つは3週間という短い期間だったこと、もう一つは僕自身が計算社会科学の知識がないことでした。

一つ目については、インターンに入る前までにどこまでできるかが勝負だと思っていましたので、来日前から連絡を取り合ってリサーチクエスチョンを固めてもらいました。さらに分析手法の調査は、来日する前に終えていてくれたので初日のミーティングでこれは大丈夫だなと確信しました。二つ目については、松井さんが完全に自走して文献調査をしていてくれたので、僕の仕事はデータ準備や諸々のサポートだけでした。松井さんはコンピュータサイエンスが専門なので実装力については最初から不安はありませんでしたが、想定通り、実際にジョインしてもらってからも非常にスムーズにプロジェクトを進めることができました。

3週間でプレリミナリーな成果が出たのは本当にすごいと改めて思います。インターンが終了し物理的な距離はできてしまいしたが、引き続き連携し、共著を進めております。

 

良い研究を生み出し世に出していくことで、社会全体に貢献したい

 

最後に松井さんが今後研究を通じて挑戦したいことを教えてください。

ありきたりですが、良い研究を生み出して世に出していきたいです。色々なデータを使って、手法や分野にとらわれず社会現象を分析していきたいです。そういうモチベーションで計算社会科学を研究分野に選びました。こういうと仰々しいですが、どんな形でもよいので自分なりの精一杯の貢献ができればと考えています。たとえば、企業ひとつを例をとっても、色々な部署で色々な人が分業と共同をして一つの企業が成り立っていいるとがわかります。社会全体もそうで、どんな人もなにかの形で貢献を果たして社成り立っているという信念を個人的に持っています。なので、自分が挑戦すべきことは自分の能力を高めて、能力が最も発揮される場所で研究を行うことだと考えています。

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